甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
次に目が覚めると、真上に見えたのは、目を閉じたままの日水先輩の――まあまあ端正な顔だった。
「――……っ……!!?」
ギョッとした私は、状況を把握しようとキョロキョロと周囲を見回し、そして思い出した。
――抱っこしてて。
――……って、私は、何を口走ってたんだ‼
恥ずかしさに身もだえていると、私をガッチリと抱きかかえていた先輩が、ビクリと身体を震わせた。
「……あ、ああ、悪ぃ、寝てたな」
そして、軽く首を振ると、私を見下ろし口元を上げた。
「おはよう、津雲田」
「お、おはようございます……」
まるで、出勤した時のように挨拶を交わすが――今現在、先輩のヒザの上に座ったままだ。
私は、おずおずと先輩の腕から逃れ、床に置かれたいろいろをどけると、その場で正座して頭を下げた。
「津雲田?」
「申し訳ありませんでしたっ!」
「は?」
「……ゆ、昨夜のいろいろとか、この部屋の惨状とか……まあ、ご迷惑をおかけしました……」
すると、クッ、と、喉の奥で笑い、先輩は私の頭をかき回した。
「ちょっ……⁉」
「何、しおらしくしてんだ。似合わねぇ」
「なっ……!」
せっかく人が、素直に謝っているのに!
「いつもみてぇに、キャンキャン吠えてろよ」
「人を犬みたいに言わないでください!」
「猛犬注意」
「何それ⁉」
私の抗議をあっさりとかわし、先輩は立ち上がる。
すると――もう少しで頭が天井に接触するところで、私は、思わず、自分の身長に感謝してしまった。
「――おう、危ねぇな」
「……先輩がデカすぎるんですからね」
「ウチは、もう十センチくらい高いんだよ」
あっさりと天井を小突きながら、先輩は、足元で見上げている私に視線を向けた。
「――まあ、オレの身長が問題なだけで、お前には支障は無ぇんだから、良いのか」
「……五センチください」
「やだね」
「ケチ」
無意味なやり取りに、一拍置いて、二人で笑い合う。
――まるで、恋人同士のように。
そう思った瞬間、身体中の血が沸騰したように熱くなり、私は、急いで立ち上がった。
「あ、あのっ……朝ご飯、どうしましょう?」
「お前、自炊は――……」
私に視線を向けた先輩は、どこか憐れんだような表情になった。
「……この部屋じゃ無理か」
「……い、いつも、増沢が作って冷凍したもの、置いて行ってくれてます!それに、コンビニだってあるし……」
「あるのは、冷蔵庫とレンジ――あと、電気ポットか。少なくとも、包丁と鍋釜は無ぇな」
あきれたように言われ、私は、頬を膨らませながら顔を背ける。
「だからっ……」
「――なら、教えようか?」
「え?」
不意に聞こえた言葉に、目を丸くする。
――教える?何を?
キョトンとした私に、先輩は、冷蔵庫の中を覗き込みながら続ける。
「あ!何勝手に――」
「料理、洗濯、掃除。――まあ、最低限生活するのに必要なモンか」
「――え」
そして、冷蔵庫のドアを閉めると、先輩は、私を振り返った。
「一人でも生きていけるようになれば――親御さんも安心できるんじゃねぇの」
「――え」
固まった私の前に来た先輩は、その大きな手を頬に伸ばし――サッと、指でこする。
「え」
「――……寝てた時、うなされてたぞ。……パパ、ママってな」
「……っ……」
――こすり取ったのは――涙の跡?
私は、先輩を見上げ――そして、視線を落とす。
「……すみません」
「何が」
「……子供みたいで……」
けれど、先輩はうつむいた私の頭を、優しく撫でた。
「――去年だったか……事故は」
「知ってましたか」
「まあな。結構、大々的にニュースになってたからな」
先輩は、そう言いながら、私を自分の分厚い腹筋へ押し付けるように、抱き込んだ。
「――……っ……!!?」
ギョッとした私は、状況を把握しようとキョロキョロと周囲を見回し、そして思い出した。
――抱っこしてて。
――……って、私は、何を口走ってたんだ‼
恥ずかしさに身もだえていると、私をガッチリと抱きかかえていた先輩が、ビクリと身体を震わせた。
「……あ、ああ、悪ぃ、寝てたな」
そして、軽く首を振ると、私を見下ろし口元を上げた。
「おはよう、津雲田」
「お、おはようございます……」
まるで、出勤した時のように挨拶を交わすが――今現在、先輩のヒザの上に座ったままだ。
私は、おずおずと先輩の腕から逃れ、床に置かれたいろいろをどけると、その場で正座して頭を下げた。
「津雲田?」
「申し訳ありませんでしたっ!」
「は?」
「……ゆ、昨夜のいろいろとか、この部屋の惨状とか……まあ、ご迷惑をおかけしました……」
すると、クッ、と、喉の奥で笑い、先輩は私の頭をかき回した。
「ちょっ……⁉」
「何、しおらしくしてんだ。似合わねぇ」
「なっ……!」
せっかく人が、素直に謝っているのに!
「いつもみてぇに、キャンキャン吠えてろよ」
「人を犬みたいに言わないでください!」
「猛犬注意」
「何それ⁉」
私の抗議をあっさりとかわし、先輩は立ち上がる。
すると――もう少しで頭が天井に接触するところで、私は、思わず、自分の身長に感謝してしまった。
「――おう、危ねぇな」
「……先輩がデカすぎるんですからね」
「ウチは、もう十センチくらい高いんだよ」
あっさりと天井を小突きながら、先輩は、足元で見上げている私に視線を向けた。
「――まあ、オレの身長が問題なだけで、お前には支障は無ぇんだから、良いのか」
「……五センチください」
「やだね」
「ケチ」
無意味なやり取りに、一拍置いて、二人で笑い合う。
――まるで、恋人同士のように。
そう思った瞬間、身体中の血が沸騰したように熱くなり、私は、急いで立ち上がった。
「あ、あのっ……朝ご飯、どうしましょう?」
「お前、自炊は――……」
私に視線を向けた先輩は、どこか憐れんだような表情になった。
「……この部屋じゃ無理か」
「……い、いつも、増沢が作って冷凍したもの、置いて行ってくれてます!それに、コンビニだってあるし……」
「あるのは、冷蔵庫とレンジ――あと、電気ポットか。少なくとも、包丁と鍋釜は無ぇな」
あきれたように言われ、私は、頬を膨らませながら顔を背ける。
「だからっ……」
「――なら、教えようか?」
「え?」
不意に聞こえた言葉に、目を丸くする。
――教える?何を?
キョトンとした私に、先輩は、冷蔵庫の中を覗き込みながら続ける。
「あ!何勝手に――」
「料理、洗濯、掃除。――まあ、最低限生活するのに必要なモンか」
「――え」
そして、冷蔵庫のドアを閉めると、先輩は、私を振り返った。
「一人でも生きていけるようになれば――親御さんも安心できるんじゃねぇの」
「――え」
固まった私の前に来た先輩は、その大きな手を頬に伸ばし――サッと、指でこする。
「え」
「――……寝てた時、うなされてたぞ。……パパ、ママってな」
「……っ……」
――こすり取ったのは――涙の跡?
私は、先輩を見上げ――そして、視線を落とす。
「……すみません」
「何が」
「……子供みたいで……」
けれど、先輩はうつむいた私の頭を、優しく撫でた。
「――去年だったか……事故は」
「知ってましたか」
「まあな。結構、大々的にニュースになってたからな」
先輩は、そう言いながら、私を自分の分厚い腹筋へ押し付けるように、抱き込んだ。