甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
LIFE.5
――津雲田、お前は、まだ学生気分が抜けないのか。
総務部に配属され、教育係だった日水先輩が、一番最初に指示したのは、電話応対。
けれど、何のマニュアルも無く、すぐに実践だったから、私には、何をどうしたら良いのか、まったくわからなかった。
それでも、どうにか、周囲の人達の見よう見まねで会話をした――つもりだったのに。
――ああ、もう、アンタじゃ話にならないよ。上の人出して、上の人。
――えっとー、上の人って、誰ですかぁ?
本気で意味がわからず、そう返した瞬間、日水先輩は、私から電話を奪い取り、相手にひたすら頭を下げていた。
そして、五分ほどして終了すると、こちらを振り返り、そう言い放ったのだ。
――だって、何言ってるのか、わからなかったんですもんー。
――なら、オレに代われ。
――じゃあ、最初から出ろとか言わないでくださいよー。
こっちは、配属一時間にも満たないんだから、訳も分からず出させられる身にもなって欲しい。
そんな風に心の中でボヤいていると、先輩は、感情の無い瞳を私に向けた。
――お前に、会社での仕事を、予習しようという頭は無いのか。
そして、そう淡々と返され、私は、言葉に詰まる。
――今までのように、至れり尽くせりで過ごせると思うな。これから、お前にだって、戦力になってもらわないと困るんだよ。
けれど――その言葉は、新鮮だった。
――今まで、腫れ物を扱うようにしか、接してもらえなかった。
――なのに、そんな私を、”戦力”にしようとしてくれるんだ。
自分に、どんな能力があるかなんてわからない。
――でも、こんな風に、言われるのは初めてで――……。
――……すみませんでした。……日水先輩……。
知らず知らずのうちに、そんな言葉が漏れていたのだ。
――おう。励めよ。
先ほどとは打って変わって、穏やかな微笑みに、一瞬だけ見とれたのは――気のせい――のはず。
――ああ、もう!
――どうしたら良いのよ、こんなの!
結局、アレコレと昔を思い出したり、悶えたりしたせいで、日水先輩が戻って来るまで、何一つとして片付いてはいない状況だった。