甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 どうにか、朝食を終了すると、再び片付けに入る。
 先ほどの下着類は、放置してあった布袋に入れ、クローゼットに急いで放り込んだ。
 その間、先輩は、六畳一間という部屋をくまなく見回す。
「――……っつーか、よく、これだけのモン、放置できたな……」
 あきれながら言われ、私は、思わず頬を膨らませた。
「……ま、前の部屋なら……全然気にならなかったから……」
「現状を把握しろ。仕事と一緒だ」
「仕事よりも面倒……」
 肩を落として言うと、先輩は、吹き出す。
 その笑顔を見上げ、私の胸は跳ね上がった。
 
 ――そんな、子供みたいな笑顔――可愛いとか、思っちゃうじゃないの。

 けれど、先輩は、そんな気持ちに気づくでもなく、続けた。

「――まあ、要る物と要らねぇ物を、分けるだけでも違うからな」

「……ハァイ……」

 そう言うと、先輩は、キッチンをのぞき込む。
「こっちは、まったく手つかずか」
「……れ、レンジと冷蔵庫は使ってます……」
「洗い物くらいは、やってんだよな?」
「……えっと……大体、コップとか……?」
「――……皿は」
「……だ、大体、コンビニか、スーパー……?だから……使い捨てというか……」
 先輩は、振り返り、身体を起こすと、私を見やる。
「執事のじいさんの作り置きとか、どうしてんだよ」
「――……えっと……つ、使い捨て?の入れ物とか……お皿的なもの?」
 どうにか思い出しながら、たどたどしく伝えると、先輩は複雑な表情を見せた。
「……お前、それで、よく生活できてんな……」
「とりあえず生きてるから、支障無いってコトじゃないですか」
「後々、響いてくるぞ」

 ――もう、既に、響いている気もするけれど。

 私は、先輩から視線を逸らすと、ふてくされる。
「……だから……何とかしたいって思うけど、何をどうしたら良いのか、わかんないんだもん」
「――津雲田」
「ハイ?」
 声が先ほどよりも近いので、振り返れば、先輩がヒザをついて、私と視線を合わせた。
 瞬間、心臓が、口から飛び出しそうな勢いで跳ね上がる。
「おい?」
「な、なっ……何でもっ、無い、ですっ……!」
 あわあわと取り繕いながら、ジリジリと下がる。
 先輩は、そんな私を気にするでもなく、あっさりと頭を撫でた。
「え」
「――言っただろ。見捨てるような真似はしねぇって」
「え、あ」
 昨日の先輩の言葉を思い出し、うなづいて返す。
「できる限り、生活ができるように、協力はしてやるから――キレるのはやめろ」
「……ハァイ……」
 まるで子供をなだめるように言われ、ムッとしてしまうけれど、先輩が穏やかに笑うので、私は、渋々うなづいたのだった。
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