甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
それから、先輩に手伝ってもらいながら約三時間。
「――スゴイ……!増沢がいないのに、床が見える!」
「……おい、その感想はどうかと思うが……」
「え、あ、でも」
疲労の色を浮かべた先輩は、ようやく見えた床にドカリと腰を下ろした。
私も、へたれたクッションの埃を軽く叩き、敷く。
「後、掃除機かけて――……」
そう言いかけた先輩は、一旦停止。
そして、私を、あきれたように見やった。
「……津雲田。……ここに掃除機っつーモンは……」
「無いですね!」
あっさりと答える私の額を、先輩は、軽く小突く。
私は、そこを両手で押さえ、睨み上げる。
「……痛い」
「――……明るく返すな。無いなら、せめて、フローリングワイパーとかは……」
「何それ?」
その返しに、先輩は目を剥いた。
「は⁉知らねぇのかよ!」
「……まあ……」
「縁が無い弊害か――」
大きくため息をついた先輩は、立ち上がると、私を見下ろした。
「――よし、ついでだ。買い物行くぞ」
「……へ??」
あまりに唐突な宣言に、私は、目を丸くするだけしかできなかった。
約一時間後――私は、先輩と、アパートからバスで二十分ほどの距離にある、ショッピングモールに到着した。
「――えっと……先輩……?」
「まずは、収納用品、掃除用具、食器類――そんなトコか」
サクサクと予定を決めて進んで行く先輩を、私は、早足で追いかける。
「ち、ちょっと待ってください!……買い物とか……私、そんな余裕は……」
そもそも、そんな余裕があったら、もう少し――いろいろとマシになっているはず。
けれど、先輩は、私を振り返り見下ろすと、口元を上げた。
「オレが払うから」
「え⁉」
私は、ギョッとして先輩を見上げた。
すると、先輩は、あっさりと続ける。
「まずは、あの部屋をどうにかして、自分で生活できなけりゃ、いい加減仕事にも影響するだろ。初期投資だ」
「で、でも……」
「まあ、ちゃんとレシートは取っておくから、後払いな」
「ハァ⁉」
どこか楽しそうに言う先輩は、再び歩を進める。
「ま、待ってくださいってば、先輩!」
慌てて追いかけ、先輩の隣に並ぶと、何だか、楽しそうな雰囲気。
「……もしかして……先輩、こういうの、好きなんですか……?」
「好き、っつーか、気になってしょうがねぇ」
「――え」
――いや、私のコトじゃない!
なのに――心臓は、早鐘を打っていく。
――ああ、もう!自分のものなのに、何で、思う通りにしてくれないのよ!
「津雲田?」
「えっ、あっ……いえ……」
ゴニョゴニョと口ごもっていると、不意に、先輩に手を握られ、引き寄せられた。
「え」
すると、固まっている私のそばを、目の前から男子学生らしき集団がすれ違って行く。
話に夢中で、こちらに気づいていないようだった。
「危ねぇな」
「あ、ありが、と……ございます……」
――ヤバイ。握られた手が熱い。
――汗、かいてないかしら?
――ていうか――早く離してほしいのに――離してほしくない。
そんな矛盾した心に気づくでもなく――先輩は、更に手に力を込めた。
「せ、先輩?」
「――人が増えてきたな。迷子防止だ」
そう言った先輩の手も――熱い。
見上げれば、何だか、首や耳の辺りが赤い気がする。
「……先輩、照れてるんですか?」
「……うるせぇよ」
表情は見えないけれど、何だか想像がついてしまう。
そんな風に思えるのが、うれしくて――私は、うつむきながら、ニヤつく表情を先輩から隠したのだった。
「――スゴイ……!増沢がいないのに、床が見える!」
「……おい、その感想はどうかと思うが……」
「え、あ、でも」
疲労の色を浮かべた先輩は、ようやく見えた床にドカリと腰を下ろした。
私も、へたれたクッションの埃を軽く叩き、敷く。
「後、掃除機かけて――……」
そう言いかけた先輩は、一旦停止。
そして、私を、あきれたように見やった。
「……津雲田。……ここに掃除機っつーモンは……」
「無いですね!」
あっさりと答える私の額を、先輩は、軽く小突く。
私は、そこを両手で押さえ、睨み上げる。
「……痛い」
「――……明るく返すな。無いなら、せめて、フローリングワイパーとかは……」
「何それ?」
その返しに、先輩は目を剥いた。
「は⁉知らねぇのかよ!」
「……まあ……」
「縁が無い弊害か――」
大きくため息をついた先輩は、立ち上がると、私を見下ろした。
「――よし、ついでだ。買い物行くぞ」
「……へ??」
あまりに唐突な宣言に、私は、目を丸くするだけしかできなかった。
約一時間後――私は、先輩と、アパートからバスで二十分ほどの距離にある、ショッピングモールに到着した。
「――えっと……先輩……?」
「まずは、収納用品、掃除用具、食器類――そんなトコか」
サクサクと予定を決めて進んで行く先輩を、私は、早足で追いかける。
「ち、ちょっと待ってください!……買い物とか……私、そんな余裕は……」
そもそも、そんな余裕があったら、もう少し――いろいろとマシになっているはず。
けれど、先輩は、私を振り返り見下ろすと、口元を上げた。
「オレが払うから」
「え⁉」
私は、ギョッとして先輩を見上げた。
すると、先輩は、あっさりと続ける。
「まずは、あの部屋をどうにかして、自分で生活できなけりゃ、いい加減仕事にも影響するだろ。初期投資だ」
「で、でも……」
「まあ、ちゃんとレシートは取っておくから、後払いな」
「ハァ⁉」
どこか楽しそうに言う先輩は、再び歩を進める。
「ま、待ってくださいってば、先輩!」
慌てて追いかけ、先輩の隣に並ぶと、何だか、楽しそうな雰囲気。
「……もしかして……先輩、こういうの、好きなんですか……?」
「好き、っつーか、気になってしょうがねぇ」
「――え」
――いや、私のコトじゃない!
なのに――心臓は、早鐘を打っていく。
――ああ、もう!自分のものなのに、何で、思う通りにしてくれないのよ!
「津雲田?」
「えっ、あっ……いえ……」
ゴニョゴニョと口ごもっていると、不意に、先輩に手を握られ、引き寄せられた。
「え」
すると、固まっている私のそばを、目の前から男子学生らしき集団がすれ違って行く。
話に夢中で、こちらに気づいていないようだった。
「危ねぇな」
「あ、ありが、と……ございます……」
――ヤバイ。握られた手が熱い。
――汗、かいてないかしら?
――ていうか――早く離してほしいのに――離してほしくない。
そんな矛盾した心に気づくでもなく――先輩は、更に手に力を込めた。
「せ、先輩?」
「――人が増えてきたな。迷子防止だ」
そう言った先輩の手も――熱い。
見上げれば、何だか、首や耳の辺りが赤い気がする。
「……先輩、照れてるんですか?」
「……うるせぇよ」
表情は見えないけれど、何だか想像がついてしまう。
そんな風に思えるのが、うれしくて――私は、うつむきながら、ニヤつく表情を先輩から隠したのだった。