甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
「おい、そっちはデカすぎる。もう一つ小さいのにしておけ」

「でも、入りません!」

「一気に入れようとするな。ちゃんとサイズ図ってんだから、任せておけ」

 ショッピングモールの収納家具のエリアで、そんな風に言い合っている私と先輩に、女性店員が恐る恐る近づいて来た。

「お客様、収納家具でしたら、奥にもございますよ?」

 それでも、ニコリ、と、笑みを張り付けるあたり、やはりプロだと感心してしまう。
 けれど。

ご新居(・・・)のものでしたら、そちらですべて揃えられるようにもなっておりますが――」

「へ?」

 キョトンとした顔を見せる私に、彼女は続ける。

新婚(・・)のお客様に向けたシリーズもございますし」

「しっ、しっ……!!?」

 すると、目を剥く私をよそに、先輩は、余所行き仕様で返す。

「ありがとうございます。――でも、急な事だったので、あまり予算は組んで無くて」

「さようでございますか。でしたら、こちらもリーズナブルなシリーズですので、ごゆっくりどうぞ」

 店員の彼女は、気を悪くするでもなく、笑顔で去って行く。
 それを見送ると、私は、真っ赤な顔で先輩を見上げた。
「……先輩、何か、誤解されてませんか……」
「仕方ねぇだろ。――これじゃあな」
「え」
 先輩が、あきれたように手を上に上げると――私の手も、自動的に上がる。

「――っ……!!!」

 ――そう言えば……ずっと、手を繋いでた!!!

 硬直した私を見やり、先輩は、クッ、と、喉を鳴らして笑う。

「気づいてなかったのかよ」

「……だ、だって……」

 あまりに自然な気がして――……。

 そう思うのは、先輩の手の温もりが、安心できてしまうから。

「――まあ、ここまで来て離すのも何だし、あきらめろ」
「……せ、先輩は良いんですか」
「は?」
 私は、口ごもりながらも、先輩に言った。
「……ほ、他の人に……誤解されちゃうんじゃ……」
「誤解っつーか、そういう設定だっただろ」
「え」
 キョトンと返した私に、先輩は、あきれたように返す。
「少なくとも、会社では、そういう事になってんだろうが。飲み会の帰り、忘れたのかよ」
「――え、あ」
 私は、一瞬考え、ようやく思い出す。
 そもそも、先輩が私の部屋に来たのは、それが原因だったのだし。
「……す、すみません……」
「別に。――どうせ、女っ気も無いしな。お前の方こそ、迷惑じゃ「ありません‼」
 食い気味に叫んだ私を、先輩は、目を丸くして見下ろす。
 そして、そっと手を離すと、優しく私の頭を撫でた。

「――なら、良い」

 穏やかに微笑まれ、心臓が、破裂しそうだ。

「じゃあ、今回は、オレの言う方を買っておけ」
「……ハ、ハイ」
「それで、足りないとか、不便があったら、また来週末だな」
「え」
 その言葉に、私は、目を丸くする。
 ――来週って……。
「しばらく、毎週末来るぞ」
「え」
「執事のじいさんの代わりと思え」
「え・あ・でも……め、迷惑じゃ……」
「迷惑なら、最初からやってねぇよ」
 私は、跳ね上がる胸を押さえながら、コクリ、と、うなづいた。

 ――少なくとも……嫌われてはない、よね……。

 希望的観測と言われようが、こんな風にされたら、期待してしまう。

 ――……先輩も、私の事、好きだと良いな……。

 まるで、学生のような片想い。
 この歳で、そんな風になるとは思わなかった。

 ――……今まで、条件だけで、相手を探していたのが、ウソみたいだ。

 私は、食器類の売り場を探して、あちこち見回している先輩を見上げ、少しだけ、口元を上げた。
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