甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
LIFE.7
「――さて、と。ひとまず、片付けからにするか」
ようやく部屋にたどり着き、先輩は、そう言いながら持っていた袋を、ドサリ、と、玄関に置いた。
その中身は、収納グッズと食器、キッチン用品だ。
「えっと……」
靴を脱ぎながら、私は、先に中に入って行く先輩を見やる。
「先輩、どこ片付けるんですかぁ?」
「は?さっきまで、振り分けていたヤツがあるだろうが。何の為にケース類買ったと思ってんだ」
先輩は、あきれながらも、その場で、袋からケースを次々と取り出した。
「大きいヤツには洋服類。ハンガーもあるから、伸びない生地はかけておけ。あと、小さいヤツは雑貨類、細かく仕切りがついているヤツは、アクセサリーってトコか」
「……せ、先輩、そんなに次から次へと言わないでくださいよー」
「うるさい、月見。さっさと入れていけ。そろそろ、オレも帰らねぇとなんだから」
「――あ、ハ、ハイ」
大きなケースを二つ、軽々と持ち上げ立ち上がる先輩を、私は、見上げる。
――……ああ、そうだ。
――……別に、先輩と一緒に住んでいる訳じゃないんだった。
先輩が口にした、帰る、と、いう言葉に、どこか寂しさを感じ、私は視線を下げる。
「おい?」
「――……何でもないです……美善さん」
私は、そのままうつむいて、小さなケースを持つ。
けれど、その手は、先輩の大きな手に包まれた。
――え。
顔を上げれば、少しだけ眉を寄せた先輩の、まあまあ端正な顔。
「……だから……不意打ちはやめろって」
「え」
「――……この鈍感お嬢が」
キョトンとして返せば、そう、ふてくされたように言われ、ムッとしてしまった。
「もう、お嬢じゃないって言ってるじゃないですか」
「現時点じゃ、まだまだ、平民には程遠い」
先輩はからかうように言うが、私は、唇を噛む。
「――おい、月見?」
「……美善さんにまで、そんな言い方して欲しくない」
「え」
――……そんな特別扱いは、してほしくない。
私は――あなたと、対等に、恋愛したい。
そう言ったら――きっと、今の先輩後輩の関係すら、壊れるに違いない。
すると、先輩は、あっさりと私の不安を拭うように、片手で抱き寄せる。
ヒザをついたままだから、腹筋ではなく――胸の中だ。
そして、持っていたケースを置くと、私を両腕で包み込む。
「……美善、さん?」
「――……あー……っと、悪いな。深い意味は無ぇんだけど、引っかかったんなら謝る」
言いながら、先輩は、トントン、と、子供をなだめるように、私の背中を軽く叩いた。
「……子供扱い」
「コレもダメか。面倒だな」
弱り果てたように言うので、私は、そっと、先輩の背中に腕を回す。
その身体の大きさに、すべては回り切らないけれど――。
「……少しだけ、こうしててくれたら……許します」
「ハイハイ。何なら、抱っこしてやろうか、お姫様?」
からかうように耳元で囁かれ、身体中に電流が走ったよう。
「――……っ……バカッ‼」
「悪い、悪い」
思わず突き飛ばしてしまうと、先輩は、そう言いながら、楽しそうに私の頭を撫でたのだった。