甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
「じゃあな。戸締りだけは、気をつけろよ」

 そう言いながら、先輩は、ドアを閉めながら、私を見下ろす。

「……増沢みたいなコト、言わないでくださいよ……」

 若干、ふてくされながらも私がうなづいて返すと、閉まりかけたドアが再び開いた。
 そして、先輩の大きな手が、頭をそっと撫でる。

「ふてくされるんじゃねぇよ。――心配してンだって、何度も言わせるな」

「……っ……」

 不意打ちの甘さに、私は、コクコクとうなづく。


 ――ああ、もう!
 ――当然のように、そんな風に言わないで!勘違いしちゃうから‼


 ――……ただの後輩に、それは、反則でしょ……。


「また明日な」

「……ハイ……」

 私が、真っ赤になっただろう顔を伏せると、ドアはゆっくりと閉まっていく。

 それが――本当に名残惜しくて顔を上げるが、見えるのは、無機質な古ぼけたドアだけ。


 ――……帰っちゃった……。


 昨日から、何だか夢のような事ばかり起きて、頭がついていかない。

 けれど、先輩が好きだという気持ちは――もう、ハッキリと気づいてしまった。


 ――……もう、マチアプ、やめよう……。


 ひたすら、条件だけで相手を探していたのが、ウソみたいだ。


 ――結婚するなら、先輩とが良い。

 ――きっと――私を大事にしてくれると思える。


 私は、テーブルに置きっぱなしのスマホを手に取ると、アプリのアイコンを押して消去。
 どうせ、強制退会させられたんだから、もう、個人情報も消えているはず。
 他のアプリは検索中だったし、何の未練も無い。

「……これで、よし」

 ――まあ、まずは、両想いになるコトからだけどね……。

 とにかく、今の立場は、絶対に他の人よりも有利――だと思う。
 ただの後輩だったら、こんな風に、家に来ていろいろ面倒見てもらえるはずが無いもの。

 ――それなら――少しずつでも、先輩に意識してもらえるようにならなきゃ。

 私は、両手を握り締め、決意した。
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