甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
ようやく落ち着きを取り戻し、私は、バッグを持って部屋を出た。
日が落ちるのが遅くなったとはいえ、もう辺りは薄暗くなってきている。
けれど、コンビニは目と鼻の先。
ほんの数分で、いつもの明かりが見え、少しだけホッとした。
――先輩が、あんなに心配するから……。
別に、身の危険を感じている訳でも無いのに、妙な緊張感があるのは、先輩がしつこいくらいに念を押していたからだ。
コンビニの自動ドアをくぐり、いつもの聞き慣れた音楽に迎えられ、私は、いつもの店内を見回す。
――夕飯は――……おにぎり、かな。
朝はパンで良いや。
そんなコトを思いながら、穴だらけになっているケースを見渡す。
もう、ピークは過ぎたのか、売れ残りの商品がポツポツとあるだけだ。
私は、おにぎりコーナーを見やり、割引シールが貼ってあるものを手に取った。
別に、好き嫌いは無いし、二十円だろうが三十円だろうが、安いに越したコトは無い。
――今の私に必要なのは、次のお給料日までの約十日間、最低限の支出で済ませるコトだ。
いつだってそう思っているはずなのに、いつもいつも、知らない間にお金が消えていくのは、何でだろう。
「……先輩に、ちゃんと教わらなきゃ……」
じゃないと、この先、増沢が来られなくなったら、一瞬で破産してしまう。
――……でも、今日のところは……。
切羽詰まった状況ではあるけれど、飲まず食わずでいられるはずも無い。
私は、悩みに悩んで、二十円引きの鶏ごぼうおにぎり一個と、朝食用の三十円引きのベーコンエピ、そして、ペットボトルのお茶を二本、レジに持って行く。
けれど、そこに店員は不在。
ピークを過ぎたせいか、店内で作業をしているようだ。
私は、思い切って、声を上げた。
「あ、あの!お、お願いします!」
緊張で声が震えてしまうが、店にお客が誰もいなかったせいか、すぐに足音が聞こえてホッとする。
「すみません、お待たせしました」
けれど、低くボソボソとした声で言われ、心臓が冷える。
――……あ、若い男性だ。
いつも、おじさんやお姉さんだったから、油断していた。
自分から他人とかかわる機会が少なかったせいか、どうしても、知らない人に対してはオドオドとしてしまうんだ。
――生きていくには、他人と関わらなければなりません。
けれど、以前、増沢に言われたコトを思い出し、顔を上げる。
「お、お願いします」
勇気を出してそう言ったが、無言で会計が始まって、私は、縮こまってしまった。
――……ヤ、ヤダな……。
――……機嫌悪そう……。
「おにぎりは、温めますか」
「えっ、あっ……いえ……」
「このままのお渡しで、よろしいですか」
「ハ、ハイ……」
そんなやり取りの後、お金を払おうと財布を出すが、一向に金額が聞こえず、私はその店員を見やる。
すると――少しだけ長い前髪の奥の目が、私をジッと見つめていた。
――え?
――……私、何かした?
いざとなったら、商品をあきらめてダッシュするしかない。
そんな風に覚悟を決めていたら――思ってもみない言葉が聞こえた。
「――……その声……アンタ……隣の人……?」
日が落ちるのが遅くなったとはいえ、もう辺りは薄暗くなってきている。
けれど、コンビニは目と鼻の先。
ほんの数分で、いつもの明かりが見え、少しだけホッとした。
――先輩が、あんなに心配するから……。
別に、身の危険を感じている訳でも無いのに、妙な緊張感があるのは、先輩がしつこいくらいに念を押していたからだ。
コンビニの自動ドアをくぐり、いつもの聞き慣れた音楽に迎えられ、私は、いつもの店内を見回す。
――夕飯は――……おにぎり、かな。
朝はパンで良いや。
そんなコトを思いながら、穴だらけになっているケースを見渡す。
もう、ピークは過ぎたのか、売れ残りの商品がポツポツとあるだけだ。
私は、おにぎりコーナーを見やり、割引シールが貼ってあるものを手に取った。
別に、好き嫌いは無いし、二十円だろうが三十円だろうが、安いに越したコトは無い。
――今の私に必要なのは、次のお給料日までの約十日間、最低限の支出で済ませるコトだ。
いつだってそう思っているはずなのに、いつもいつも、知らない間にお金が消えていくのは、何でだろう。
「……先輩に、ちゃんと教わらなきゃ……」
じゃないと、この先、増沢が来られなくなったら、一瞬で破産してしまう。
――……でも、今日のところは……。
切羽詰まった状況ではあるけれど、飲まず食わずでいられるはずも無い。
私は、悩みに悩んで、二十円引きの鶏ごぼうおにぎり一個と、朝食用の三十円引きのベーコンエピ、そして、ペットボトルのお茶を二本、レジに持って行く。
けれど、そこに店員は不在。
ピークを過ぎたせいか、店内で作業をしているようだ。
私は、思い切って、声を上げた。
「あ、あの!お、お願いします!」
緊張で声が震えてしまうが、店にお客が誰もいなかったせいか、すぐに足音が聞こえてホッとする。
「すみません、お待たせしました」
けれど、低くボソボソとした声で言われ、心臓が冷える。
――……あ、若い男性だ。
いつも、おじさんやお姉さんだったから、油断していた。
自分から他人とかかわる機会が少なかったせいか、どうしても、知らない人に対してはオドオドとしてしまうんだ。
――生きていくには、他人と関わらなければなりません。
けれど、以前、増沢に言われたコトを思い出し、顔を上げる。
「お、お願いします」
勇気を出してそう言ったが、無言で会計が始まって、私は、縮こまってしまった。
――……ヤ、ヤダな……。
――……機嫌悪そう……。
「おにぎりは、温めますか」
「えっ、あっ……いえ……」
「このままのお渡しで、よろしいですか」
「ハ、ハイ……」
そんなやり取りの後、お金を払おうと財布を出すが、一向に金額が聞こえず、私はその店員を見やる。
すると――少しだけ長い前髪の奥の目が、私をジッと見つめていた。
――え?
――……私、何かした?
いざとなったら、商品をあきらめてダッシュするしかない。
そんな風に覚悟を決めていたら――思ってもみない言葉が聞こえた。
「――……その声……アンタ……隣の人……?」