甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
それから、すぐ。二人で駅の中に入る辺りで、不意に私のスマホが振動した。
「電話か」
「いえ、メッセージです」
そう言って、歩道の端に寄って立ち止まると、画面を確認。
そして――顔をしかめてしまった。
「おい?」
「……マチアプ運営から……」
――事情はございますでしょうが、お客様の度重なる不誠実な行動は、当方の規約に反する行為とみなし、強制的に退会手続きを取らせていただきます。
どうやら今まで、キャンセルしてきた彼たちから、運営にクレームが入っていたらしい。
読んでいけば、実際に会ってもいないのに、金銭を要求されたなんて、言いがかりも書いてある。
完全に、私が悪者だけど――もう、仕方ない。
こんな風にしていたら、そりゃあ、クレームも来るわ。
「――……あーあ……。……結構、条件良い男、揃ってたのになぁ……」
そう、ひとりごちていると、手元に影ができる。
私は、慌ててスマホを隠し、顔を上げた。
「ちょっと、先輩!のぞかないでくださいよ!」
「いや、視界に入っただけだ」
すぐ隣に来て、視線を下げれば――先輩の身長なら、あっさりと見えるのに!
「――しっかし――そんな、マッチングアプリとかで、まともな男が見つかるのかよ」
「バカにしないでください。今時、普通ですし、結婚成立数なんて相当ですよ」
「オレには、合わねぇな」
「別に、先輩に使ってくれなんて言ってませんー」
「そもそも、女なんていらねぇしな」
言い合いながらも、足は止まらない。
そして――歩幅は、変わらずゆっくり。
――そんな気遣いができるのに。
「――……もったいないな……」
思わず、そう、口から出てしまった。
けれど。
「ん?」
一拍おいてキョトンと聞き返され、私は、顔を背けた。
「悪いな、ちょっと聞き取れなかったわ」
「……時差があるんですか、この身長差は」
「いや、あるあるだぞ?」
「そんな情報、いりません」
平然と笑う先輩を見上げ、次には、視線を手元に落とす。
「……ていうか……新しいトコ、探さなきゃ……」
今回の件で、業界のブラックリストに入れられてなきゃ良いんだけど……。
すると、先輩は心底不思議そうに、私を見下ろして言った。
「――まあ、個人の自由だろうけど……結局、相手が見つかんねぇのに、何でそこまで頑張ってんだ?」
私は顔を上げると、これ見よがしにため息をついた。
「……先輩には、絶対にわからないでしょうよ」
「いや、わかるかもしれねぇだろ」
――ああ、コレは、譲らないな。
一緒に仕事をしていれば、何となくわかってくる。
この男は――自分が納得しない限りは、引き下がらないんだ。
それは、仕事上でも、プライベートでも。
私は、そっぽを向きながら、ポツリと言った。
「――……私が望んでいるのは――大好きな人との幸せな、甘い生活。それだけです」
……ああ、恥ずかしい!
――……こんなの、人に言ったところで、鼻で笑われるだけなのに!
すると、頭に、柔らかく温かい感触――それが、先輩の大きな手なのは、もう、知っている。
顔を上げれば、私を見下ろしている先輩。
暗いから、その表情は、よく見えないけれど――。
「まあ、そういうのも良いんじゃねぇの」
淡々と、からかうでもなく、そう言われる。
――……仕事の時とは違って、こういう時、この人は、絶対に私を否定しないんだ。
「……絶対に、誰にも言わないでくださいよ」
「おう。口の堅さは折り紙付きだぞ?」
「……本当ですかぁ……?」
軽口の応酬が、何だか心地良かった。
「電話か」
「いえ、メッセージです」
そう言って、歩道の端に寄って立ち止まると、画面を確認。
そして――顔をしかめてしまった。
「おい?」
「……マチアプ運営から……」
――事情はございますでしょうが、お客様の度重なる不誠実な行動は、当方の規約に反する行為とみなし、強制的に退会手続きを取らせていただきます。
どうやら今まで、キャンセルしてきた彼たちから、運営にクレームが入っていたらしい。
読んでいけば、実際に会ってもいないのに、金銭を要求されたなんて、言いがかりも書いてある。
完全に、私が悪者だけど――もう、仕方ない。
こんな風にしていたら、そりゃあ、クレームも来るわ。
「――……あーあ……。……結構、条件良い男、揃ってたのになぁ……」
そう、ひとりごちていると、手元に影ができる。
私は、慌ててスマホを隠し、顔を上げた。
「ちょっと、先輩!のぞかないでくださいよ!」
「いや、視界に入っただけだ」
すぐ隣に来て、視線を下げれば――先輩の身長なら、あっさりと見えるのに!
「――しっかし――そんな、マッチングアプリとかで、まともな男が見つかるのかよ」
「バカにしないでください。今時、普通ですし、結婚成立数なんて相当ですよ」
「オレには、合わねぇな」
「別に、先輩に使ってくれなんて言ってませんー」
「そもそも、女なんていらねぇしな」
言い合いながらも、足は止まらない。
そして――歩幅は、変わらずゆっくり。
――そんな気遣いができるのに。
「――……もったいないな……」
思わず、そう、口から出てしまった。
けれど。
「ん?」
一拍おいてキョトンと聞き返され、私は、顔を背けた。
「悪いな、ちょっと聞き取れなかったわ」
「……時差があるんですか、この身長差は」
「いや、あるあるだぞ?」
「そんな情報、いりません」
平然と笑う先輩を見上げ、次には、視線を手元に落とす。
「……ていうか……新しいトコ、探さなきゃ……」
今回の件で、業界のブラックリストに入れられてなきゃ良いんだけど……。
すると、先輩は心底不思議そうに、私を見下ろして言った。
「――まあ、個人の自由だろうけど……結局、相手が見つかんねぇのに、何でそこまで頑張ってんだ?」
私は顔を上げると、これ見よがしにため息をついた。
「……先輩には、絶対にわからないでしょうよ」
「いや、わかるかもしれねぇだろ」
――ああ、コレは、譲らないな。
一緒に仕事をしていれば、何となくわかってくる。
この男は――自分が納得しない限りは、引き下がらないんだ。
それは、仕事上でも、プライベートでも。
私は、そっぽを向きながら、ポツリと言った。
「――……私が望んでいるのは――大好きな人との幸せな、甘い生活。それだけです」
……ああ、恥ずかしい!
――……こんなの、人に言ったところで、鼻で笑われるだけなのに!
すると、頭に、柔らかく温かい感触――それが、先輩の大きな手なのは、もう、知っている。
顔を上げれば、私を見下ろしている先輩。
暗いから、その表情は、よく見えないけれど――。
「まあ、そういうのも良いんじゃねぇの」
淡々と、からかうでもなく、そう言われる。
――……仕事の時とは違って、こういう時、この人は、絶対に私を否定しないんだ。
「……絶対に、誰にも言わないでくださいよ」
「おう。口の堅さは折り紙付きだぞ?」
「……本当ですかぁ……?」
軽口の応酬が、何だか心地良かった。