甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
そして、数分歩き、先輩と二人、駅前のバスターミナルに到着。
「本当に送らなくても大丈夫なのか」
「大丈夫です!!!」
渋る先輩と別れ、私は、そのままいつもの路線へ。
最終のバスに何とか間に合い、定期をタッチして、一番後ろへ。
もう、時刻は十時を過ぎている。
ここからバスで――三十分。
途中、うつらうつらとしながらも、絶対に、降車ボタンは譲らないと、気を引き締める。
同じバス停で降りるかもしれない、男女数人が乗っているのだ。
そして、響くアナウンス。
次は――の言葉が終わる前に、私は、勢いよくボタンに手を伸ばす。
――なのに。
コンマ数秒の差で、ランプが先についたのだ。
私は、恨みがましく前を見やる。
すると、平然とスーツ姿の白髪の老人が、バッグを持って立ち上がった。
――あとちょっとだったのにー‼
心の中で嘆きながらも、平静を装い私も立ち上がる。
そして、運転手さんにお礼を言うと、ゆっくりとステップを降りた。
ドアが閉まり、発車したバスを見送ると、私は、隣に立ったその老人を、ジロリと見上げた。
「――増沢、いい加減、私に、ボタンを押させてくれないかしら」
すると、彼は、申し訳無さそうに――綺麗に腰を折った。
「残念ですが、増沢は、天国の旦那様と奥様に、お嬢様をお守りすると、お約束しておりますので」
「だから、ボタン押すくらい、大丈夫でしょ!」
「いえ、何の菌がついているのかもわからないのです。できる限りは避けていただかないと」
「過保護!」
「ええ、過保護にもなりましょう」
そう言って増沢は、身体を起こすと、チラリと私を見下ろす。
日水先輩ほどではないが、彼も、なかなか背が高い。年配の男性にしては、珍しく、一八〇cmだそうだ。
「――お嬢様、今月のチェックでございます」
「……う・」
その言葉に、引きつりながらもうなづいた。
バス停から徒歩八分。
――かなりの築年数の木造アパート。
……その、二階の端のドアを開ける。
「……こ、今月も、忙しくて……」
数センチの隙間を開け、部屋の中を増沢に見せると、彼は、眉を寄せて大きくため息をついた。
「……お嬢様……普通、忙しくても、まともに生活している人間は、こんなに物があふれる事はございません……」
「本当に送らなくても大丈夫なのか」
「大丈夫です!!!」
渋る先輩と別れ、私は、そのままいつもの路線へ。
最終のバスに何とか間に合い、定期をタッチして、一番後ろへ。
もう、時刻は十時を過ぎている。
ここからバスで――三十分。
途中、うつらうつらとしながらも、絶対に、降車ボタンは譲らないと、気を引き締める。
同じバス停で降りるかもしれない、男女数人が乗っているのだ。
そして、響くアナウンス。
次は――の言葉が終わる前に、私は、勢いよくボタンに手を伸ばす。
――なのに。
コンマ数秒の差で、ランプが先についたのだ。
私は、恨みがましく前を見やる。
すると、平然とスーツ姿の白髪の老人が、バッグを持って立ち上がった。
――あとちょっとだったのにー‼
心の中で嘆きながらも、平静を装い私も立ち上がる。
そして、運転手さんにお礼を言うと、ゆっくりとステップを降りた。
ドアが閉まり、発車したバスを見送ると、私は、隣に立ったその老人を、ジロリと見上げた。
「――増沢、いい加減、私に、ボタンを押させてくれないかしら」
すると、彼は、申し訳無さそうに――綺麗に腰を折った。
「残念ですが、増沢は、天国の旦那様と奥様に、お嬢様をお守りすると、お約束しておりますので」
「だから、ボタン押すくらい、大丈夫でしょ!」
「いえ、何の菌がついているのかもわからないのです。できる限りは避けていただかないと」
「過保護!」
「ええ、過保護にもなりましょう」
そう言って増沢は、身体を起こすと、チラリと私を見下ろす。
日水先輩ほどではないが、彼も、なかなか背が高い。年配の男性にしては、珍しく、一八〇cmだそうだ。
「――お嬢様、今月のチェックでございます」
「……う・」
その言葉に、引きつりながらもうなづいた。
バス停から徒歩八分。
――かなりの築年数の木造アパート。
……その、二階の端のドアを開ける。
「……こ、今月も、忙しくて……」
数センチの隙間を開け、部屋の中を増沢に見せると、彼は、眉を寄せて大きくため息をついた。
「……お嬢様……普通、忙しくても、まともに生活している人間は、こんなに物があふれる事はございません……」