甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
「――先月からだ」
「え」
私達が驚いて顔を上げれば、コンビニの袋を片手に、先輩が見下ろしている。
「せ、先輩」
「何だ、ゴシップ好きも良いが、一応プライベートだから、あまり突っ込んで聞かないでやってくれ」
「し、主任――いえ、あの……」
不意打ちだったのか、池之島さんも、顔を引きつらせながら固まっている。
けれど、それをすぐに振り払い、彼女は、先輩を見上げた。
「でも、おめでたい話題じゃないですか」
「ほどほどに、って事だ」
先輩は、そう、あっさりといなすと、私に視線を向ける。
「月見、今日は遅くなるから、先に帰ってろよ」
「えっ、あ、ハ、ハイ」
平然とそう言うと、先輩は少し離れた席に陣取って、お昼ご飯を広げた。
残された私は――恐る恐る、池之島さんを見やる。
すると、鋭く睨みつけられ、肩を跳ね上げてしまった。
「あ、あの」
「――やだ、津雲田さん。何か、一緒に住んでいるみたい」
「え」
すると、そう、池之島さんに言われ、一瞬だけ固まってしまう。
――いや、アレは違うから!
私は、週末の事を思い出してしまい、すぐに、首を振って振り払った。
「ま、まさか。……お付き合いし始めたばかり……なのに……」
けれど、野次馬根性丸出しの有明さんと殿岡さんは、ニヤニヤと私をのぞき込んで続けた。
「でも、あっという間に進む人達もいるじゃない」
「ち、違うから」
「そーお?」
テンションの高い二人を、何とか収めてほしいが――池之島さんを見やれば、対照的に、私を無言で睨み続けている。
「あ、あの……」
「あら、お昼休み、終わっちゃうじゃない。早く食べましょ」
彼女は、私の願いなど気づきもせず、そうあっさりと言うと、自分のお弁当を、私の倍ほどの速さで食べ進めた。
憂鬱なお昼を終了し、三人から逃れてロッカールームで一休みしていると、休憩から戻って来た女性社員達が、続々と入ってきた。
「あ、お疲れ様ですー」
「お、お疲れ、さま……です」
きゃあきゃあと、何かしらの話題で盛り上がっている女性社員たちは、私を見やると挨拶をし――そして、その中の一人が、ズイ、と、顔を近づけてきた。
「……あ、あの……?」
「あなた、日水くんの彼女でしょ!」
「……へ??」
思いもしなかった言葉に目を丸くしていると、彼女は、ニヤニヤと私に言った。
「いやぁ、あのデカブツ堅物が、彼女とは――しかも、アレでしょ。あなた、去年ウチに来た、お嬢様でしょ」
「――え」
「ああ、アタシ等、アイツの同期なのよ――ねー!」
そう言って、同じように私を囲んでいた二人を見やると、同じようにニヤニヤとうなづかれた。
――というコトは――先輩社員か。
同じ会社に一年いようが、私が認識できるのは、未だに総務部内の人達くらい。
一応まだ新人だし、あまり、外に出ないので、営業部や販促部など――他の部署との接触は、ほとんど無い。
彼女たちは、戸惑っている私に構うことなく、内輪で盛り上がっている。
「そっかー。アイツ、カワイイ系が好みだったかー」
「後でからかってやろうよー!」
アハハ、と、上がる笑い声に、自分が笑われているように感じてしまい、身を縮こませる。
こんな、陽気な人たちとは、あまり接点が無いから、怖気づいてしまうのだ。
――……べ、別に、コレ、私、いなくても良いよね……?
そう思い、そそくさとロッカールームを後にしようと、ドアへと向かうが――
「そう言えば、前言ってたお見合い相手も、そんな感じじゃなかった?」
瞬間、一気に心臓が冷えた。
「――……え」
――……お見合い……って――……。