甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
自分の仕事が終わったのは、終業時刻三十分前。
それを、会議に出ている先輩のデスクに置くと、池之島さんから引き継いだ書類の山を見やった。
――……コレ……本当に今日中……?
既に、倒れそうな程に積まれた書類を倉庫に持って行って、それぞれ振り分けながらファイリングしなければならないそうだ。
――何で、こんなに多いんだろう……。
そうは思うけれど、私はやったコトが無いのだから、考えても仕方がない。
一応、やり方は教えてもらっているから、言われた通りにやるしかないのだ。
私は、げんなりしながらも、書類を空いている段ボール箱に入れて、持ち上げた。
――お……もっ……!
腕に、ズシリ、と、くる、その重さ――二桁はあるんじゃないかというくらい。
けれど、先輩からの仕事なんだから、頑張らなきゃ。
私は、そう思い、気を取り直して歩き出す。
予想通り、よろよろとしながらも、私は、地下の書類倉庫に向かうため、エレベーターに乗り込む。
そして、一旦、段ボール箱を下ろすと、”閉”のボタンを押した。
「あ、待って、待って!乗ります、乗ります!」
瞬間、そんな声と共に、男性が飛び乗ってきて、私は、ビクリ、と、身体を跳ね上げる。
そんな私を見やり、彼は、目を丸くした。
「あれ?何だ、津雲田さんじゃん」
「――あ」
思わず肩をこわばらせてしまったのは――先週、私に絡んできた、平木という同期社員だったから。
私が、隅へと後ずさろうとすると、それより先に、彼は、置いてあった段ボール箱を持ち上げた。
「え」
「何だコレ。重いなぁ」
「あ、あの」
「コレ、どこまで?」
戸惑っている私に構うコト無く、彼は、尋ねた。
「――……あ、あの、じ、自分で持てます、ので……」
「重いじゃん。良いよ、ついでだから」
ニコリ、と、そう言って返され、あまりに拍子抜けしてしまった。
先日のアレは――酔った勢いか。
「……い、一般書類倉庫です……」
実際、重いのは確かだし、持ってもらえるのなら持ってもらおう。
そう思い、私は、彼に行き先を告げた。
「オッケ。かなり溜め込んでたんだなー」
「あ、いえ、私じゃ……頼まれたので……」
「頼まれた?もう、終わる時間なのに?」
目を丸くして聞き返され、思わずうなづく。
「ハ、ハイ」
「うーん……オレ、手伝おうか?」
「え」
一瞬迷ったが、先日のアレを思い出し、即座に首を振って返した。
「いえ、だ、大丈夫……です、ので……」
私が警戒しているのに気づいたのか、彼は、苦笑いを見せる。
――え?
そして、キョトンとしている私に、思い出したように尋ねてきた。
「津雲田さんさぁー、日水主任と付き合ってるって、マジなの?」
私は、条件反射のように、うなづいて返した。
「ハ、ハイ」
「何だー……道理で、スゴイ目で睨んでくると思ったら」
「あ、あの」
「あまり重く考えないでよ。オレ、面倒なのは嫌いだし。彼氏がいる女の子には、絡まないようにしてるんだから」
あっさりと、私は対象外だと言わんばかりの言葉に、理解は追いつかない。
――こんな人もいるんだ。
そう考えるしかないかと思い、自分を納得させる。
――あの時の嫌悪感は、まだ、消えはしないけれど……みんながみんな、誠実な訳でもないんだ。
何だか不条理な気持ちのまま、エレベーターは、地下二階に到着し、扉がゆっくりと開いた。
「じゃあ、そこで良い?」
そう言って、彼は、第一保管室、と、書かれた部屋に視線を向ける。
「あ、ハ、ハイ」
私は、慌ててうなづくと、ドアを開けた。
「ありがとうございます。助かりました」
私が、深々と頭を下げると、彼は、あきれたように笑う。
「だから、同期だってば。いい加減、覚えてよ。平木。――平木大河」
そして、そう言って、部屋の真ん中に置かれた折り畳み机の上に、ドスン、と、段ボール箱を置いた。
「あ、ありがとう……」
ございます、と、続けようとして飲み込む。
それに気づいた平木――くんは、口元を上げると、じゃあな、と、部屋を後にしていったのだった。
それを、会議に出ている先輩のデスクに置くと、池之島さんから引き継いだ書類の山を見やった。
――……コレ……本当に今日中……?
既に、倒れそうな程に積まれた書類を倉庫に持って行って、それぞれ振り分けながらファイリングしなければならないそうだ。
――何で、こんなに多いんだろう……。
そうは思うけれど、私はやったコトが無いのだから、考えても仕方がない。
一応、やり方は教えてもらっているから、言われた通りにやるしかないのだ。
私は、げんなりしながらも、書類を空いている段ボール箱に入れて、持ち上げた。
――お……もっ……!
腕に、ズシリ、と、くる、その重さ――二桁はあるんじゃないかというくらい。
けれど、先輩からの仕事なんだから、頑張らなきゃ。
私は、そう思い、気を取り直して歩き出す。
予想通り、よろよろとしながらも、私は、地下の書類倉庫に向かうため、エレベーターに乗り込む。
そして、一旦、段ボール箱を下ろすと、”閉”のボタンを押した。
「あ、待って、待って!乗ります、乗ります!」
瞬間、そんな声と共に、男性が飛び乗ってきて、私は、ビクリ、と、身体を跳ね上げる。
そんな私を見やり、彼は、目を丸くした。
「あれ?何だ、津雲田さんじゃん」
「――あ」
思わず肩をこわばらせてしまったのは――先週、私に絡んできた、平木という同期社員だったから。
私が、隅へと後ずさろうとすると、それより先に、彼は、置いてあった段ボール箱を持ち上げた。
「え」
「何だコレ。重いなぁ」
「あ、あの」
「コレ、どこまで?」
戸惑っている私に構うコト無く、彼は、尋ねた。
「――……あ、あの、じ、自分で持てます、ので……」
「重いじゃん。良いよ、ついでだから」
ニコリ、と、そう言って返され、あまりに拍子抜けしてしまった。
先日のアレは――酔った勢いか。
「……い、一般書類倉庫です……」
実際、重いのは確かだし、持ってもらえるのなら持ってもらおう。
そう思い、私は、彼に行き先を告げた。
「オッケ。かなり溜め込んでたんだなー」
「あ、いえ、私じゃ……頼まれたので……」
「頼まれた?もう、終わる時間なのに?」
目を丸くして聞き返され、思わずうなづく。
「ハ、ハイ」
「うーん……オレ、手伝おうか?」
「え」
一瞬迷ったが、先日のアレを思い出し、即座に首を振って返した。
「いえ、だ、大丈夫……です、ので……」
私が警戒しているのに気づいたのか、彼は、苦笑いを見せる。
――え?
そして、キョトンとしている私に、思い出したように尋ねてきた。
「津雲田さんさぁー、日水主任と付き合ってるって、マジなの?」
私は、条件反射のように、うなづいて返した。
「ハ、ハイ」
「何だー……道理で、スゴイ目で睨んでくると思ったら」
「あ、あの」
「あまり重く考えないでよ。オレ、面倒なのは嫌いだし。彼氏がいる女の子には、絡まないようにしてるんだから」
あっさりと、私は対象外だと言わんばかりの言葉に、理解は追いつかない。
――こんな人もいるんだ。
そう考えるしかないかと思い、自分を納得させる。
――あの時の嫌悪感は、まだ、消えはしないけれど……みんながみんな、誠実な訳でもないんだ。
何だか不条理な気持ちのまま、エレベーターは、地下二階に到着し、扉がゆっくりと開いた。
「じゃあ、そこで良い?」
そう言って、彼は、第一保管室、と、書かれた部屋に視線を向ける。
「あ、ハ、ハイ」
私は、慌ててうなづくと、ドアを開けた。
「ありがとうございます。助かりました」
私が、深々と頭を下げると、彼は、あきれたように笑う。
「だから、同期だってば。いい加減、覚えてよ。平木。――平木大河」
そして、そう言って、部屋の真ん中に置かれた折り畳み机の上に、ドスン、と、段ボール箱を置いた。
「あ、ありがとう……」
ございます、と、続けようとして飲み込む。
それに気づいた平木――くんは、口元を上げると、じゃあな、と、部屋を後にしていったのだった。