甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる

 ――……みっ……!

 ――……き、みっ……!!!


 何だか、名前を呼ばれている気がして、目を開ける。
 うっすらと見えたのは、古ぼけた天井。


 ――そして。



「月見!無事か‼」



「……せん……ぱい……?」


 急に視界に入ってきた先輩に戸惑いながらも、身体を起こそうとし――後ろ頭を反射で押さえた。
「い……ったあ……」
「おい、動くな!今、救急車――」
「え、え??」
 何だか大げさになっていきそうで、私は、慌てて先輩を止める。
「な、何ですか?何が――」

「この……バカお嬢!!!自分が頭打ってるのにも気づかねぇのか!!!」

 けれど、真っ青になって怒鳴りつけられ、完全に停止した。

「――……え??」

「え、じゃねぇ!大体、何時だと思ってんだ‼」

 私が目を丸くすると、先輩は、自分のスマホを、ズイ、と、差し出した。
 そこに見えるのは――

「……十一時十分……??」

 まさか、翌日までかかってしまうなんて。
 そんな風に思ったけれど、先輩は、苦々しい表情で訂正した。

「バカ。……夜だ――……夜の十一時十分。時計くらい、まともに読んでくれねぇか」

「――……は??」

 ギョッとして顔を上げるが、立ち上がった先輩の表情は見えない。
「――まあ、とにかく、受け答えはしっかりしてるな。お前はそこから動くな。今、救急車を呼ぶ」
「き、救急車?」
「頭打ってるって言っただろうが。無事だとわかるまで、自分で動き回るなよ」

 そうクギを刺すと、先輩は、ゆっくりと部屋のドアを開けて出て行った。



 その後、会社から救急車で救急外来に運び込まれた私は、いろんな検査を受け、結果待ちの状態でベッドで横になっていた。

「……先輩……一体、何がどうなってるんですかぁ……?」

 腕組みをしながら、ベッドの脇の丸イスに腰を下ろしている先輩は、ジロリ、と、私を見やる。
「……何がどうなってるってのは、オレの方が聞きてぇな」
「だ、だって、私、資料のファイリングして――……」
 そう言いかけ、一時停止。

 ――……あれ……?
 ――……私があの部屋にいたの、何でわかったの?

 ――……それに――何で、私が会社にいるって……。

 グルグルと疑問が回る中、コンコン、と、ドアがノックされ、お医者様が入ってきた。

「ええっと、検査の結果ですが――特段、異常は無かったですね。小さくたんこぶができていますけど、影響は無いかと思います」

「そうですか」

 私の代わりに、先輩がホッとした表情でうなづく。
「ただ、後になって異常を感じる場合もありますので、少しでもおかしいと思ったら、すぐに受診してください」
「わかりました。ありがとうございます」
 立ち上がった先輩は、深々と頭を下げ、ドアが閉まるのを見送る。
 私は、ベッドから起き上がり、そのまま立ち上がろうとするが――

「……先輩……?」

 キツく抱き締められ、完全に身体は硬直した。
< 46 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop