甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
私は、言葉を飲み込むと、話題をすり替える。
「……そ、それより……私、確か、脚立で――……」
「その脚立と一緒に、ひっくり返ってたんだよ、お前」
間髪入れずに返され、目を丸くした。
「え」
――そうだ。
あの時――その高さにパニックになって――……もしかしたら、気を失ったのかもしれない。
「――まあ、平木が、気にかけてくれなきゃ、万が一ってコトもあったから、後で礼言っておけよ」
「……え?」
私は、思わぬ言葉に、先輩に尋ねた。
「……何で、平木――クン、が?」
「お前の書類、代わりに持って行っただろ」
「あ、ハイ。かなり重かったんで、持ってもらいましたー」
私が、あっさりとうなづくと、先輩は顔をしかめた。
「お……前なあ……」
「何ですかぁ」
――事実を言っただけなのに。
若干ムッとしてしまったが、なるべく顔には出さないように頑張った。
今は、事情を聞く方が優先なんだから。
すると、私の意思を感じ取ったのか、先輩は、文句を飲み込んで続けてくれた。
「――平木のヤツ、総務に戻った後も、ずっと、違和感があったらしくてな。――家に帰った後で、オレに直接連絡があった」
「――え」
――……どういうコト……??
目を丸くしていると、あきれたように、先輩は続ける。
「――……そもそも、あんな量の書類、どこから出てきたのか、ってな」
「――……あ」
それは――私も、何となく感じ取っていたコトだ。
けれど、作業を進める方が優先だと思い、意識の外に追い出していた。
「大体、自分が持っている作業を預けるなら、事情の説明とオレへの報告があってしかるべきだろう。お前の態度から、どうも、そういうモンが無かったように感じたらしくてな」
「……それは……まあ……」
池之島さんは、半ば、問答無用で押しつけてきたようなものだった。
けれど、彼女なりの理由があったからで――。
「平木なりに、心配だったみたいだな。まあ、この前のコトで、罪悪感があったからかもしれねぇけど」
「……それで……先輩が、来たんですか?」
「当たり前だろうが。何かあったら、大事だしな」
「――……あ、ありがとう……ございます……」
私が、おずおずと、お礼を言いながら先輩を見上げると、苦々しい表情で、額をデコピンしてきた。
多少の手加減はあっただろうけど――
「……先輩……結構痛いですぅ……」
「うるせぇよ。心配かけたバツだと思え」
額を押さえて抗議すると、先輩は、私の手をそっと外し――
そこに、軽く、キスをした。
――……え???
そう認識した瞬間、全身の血が沸騰しそうになった。
「せっ、せっ……先……輩っ……????」
私が、真っ赤になったまま、見上げれば――先輩も、首まで真っ赤だ。
「――っ……心配、したんだからな……」
私から顔を背け、ボソボソと歯切れ悪く言われるが、こちらとしては、爆発しそうな心臓を抑えるのに必死で、そんなコト、気にしていられない。
「……先輩……ありがとうございます……」
「……おう……」
かろうじてお礼だけ言うと、私は、ベッドから下りて、置いてあったバッグを手に取った。
「おい、待て、月見」
「……ハイ」
恥ずかしすぎて、早く部屋から出たかったのに――。
先輩に引き留められたら、止まらなきゃって思ってしまう。
「――一応、まだ、夜中だ。今日は、危ねぇし――オレのトコ、泊まっていけ」
「……ハァイ――……ハイ??」
平然と提案され、私は、思わず聞き返してしまった。
「タクシー、呼んでおく。何かあったら、ウチの方が病院に近いしな」
「え、え、え???」
ち、ちょっと待って。
――ねえ、先輩⁉
急展開に、頭がついていかない私は、放心状態のまま、先輩に連れて行かれたのだった。
「……そ、それより……私、確か、脚立で――……」
「その脚立と一緒に、ひっくり返ってたんだよ、お前」
間髪入れずに返され、目を丸くした。
「え」
――そうだ。
あの時――その高さにパニックになって――……もしかしたら、気を失ったのかもしれない。
「――まあ、平木が、気にかけてくれなきゃ、万が一ってコトもあったから、後で礼言っておけよ」
「……え?」
私は、思わぬ言葉に、先輩に尋ねた。
「……何で、平木――クン、が?」
「お前の書類、代わりに持って行っただろ」
「あ、ハイ。かなり重かったんで、持ってもらいましたー」
私が、あっさりとうなづくと、先輩は顔をしかめた。
「お……前なあ……」
「何ですかぁ」
――事実を言っただけなのに。
若干ムッとしてしまったが、なるべく顔には出さないように頑張った。
今は、事情を聞く方が優先なんだから。
すると、私の意思を感じ取ったのか、先輩は、文句を飲み込んで続けてくれた。
「――平木のヤツ、総務に戻った後も、ずっと、違和感があったらしくてな。――家に帰った後で、オレに直接連絡があった」
「――え」
――……どういうコト……??
目を丸くしていると、あきれたように、先輩は続ける。
「――……そもそも、あんな量の書類、どこから出てきたのか、ってな」
「――……あ」
それは――私も、何となく感じ取っていたコトだ。
けれど、作業を進める方が優先だと思い、意識の外に追い出していた。
「大体、自分が持っている作業を預けるなら、事情の説明とオレへの報告があってしかるべきだろう。お前の態度から、どうも、そういうモンが無かったように感じたらしくてな」
「……それは……まあ……」
池之島さんは、半ば、問答無用で押しつけてきたようなものだった。
けれど、彼女なりの理由があったからで――。
「平木なりに、心配だったみたいだな。まあ、この前のコトで、罪悪感があったからかもしれねぇけど」
「……それで……先輩が、来たんですか?」
「当たり前だろうが。何かあったら、大事だしな」
「――……あ、ありがとう……ございます……」
私が、おずおずと、お礼を言いながら先輩を見上げると、苦々しい表情で、額をデコピンしてきた。
多少の手加減はあっただろうけど――
「……先輩……結構痛いですぅ……」
「うるせぇよ。心配かけたバツだと思え」
額を押さえて抗議すると、先輩は、私の手をそっと外し――
そこに、軽く、キスをした。
――……え???
そう認識した瞬間、全身の血が沸騰しそうになった。
「せっ、せっ……先……輩っ……????」
私が、真っ赤になったまま、見上げれば――先輩も、首まで真っ赤だ。
「――っ……心配、したんだからな……」
私から顔を背け、ボソボソと歯切れ悪く言われるが、こちらとしては、爆発しそうな心臓を抑えるのに必死で、そんなコト、気にしていられない。
「……先輩……ありがとうございます……」
「……おう……」
かろうじてお礼だけ言うと、私は、ベッドから下りて、置いてあったバッグを手に取った。
「おい、待て、月見」
「……ハイ」
恥ずかしすぎて、早く部屋から出たかったのに――。
先輩に引き留められたら、止まらなきゃって思ってしまう。
「――一応、まだ、夜中だ。今日は、危ねぇし――オレのトコ、泊まっていけ」
「……ハァイ――……ハイ??」
平然と提案され、私は、思わず聞き返してしまった。
「タクシー、呼んでおく。何かあったら、ウチの方が病院に近いしな」
「え、え、え???」
ち、ちょっと待って。
――ねえ、先輩⁉
急展開に、頭がついていかない私は、放心状態のまま、先輩に連れて行かれたのだった。