甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
LIFE.12
 あっという間にタクシーは、病院から日水先輩が住んでいるマンションにたどり着き――私は、目を丸くして顔を垂直に上げた。

「……何で、こんな大きいマンション住んでるんですかあー??」

 見上げても、最上階が見えないのは――真っ暗なせいだけではない。
 おそらく、三十階近くはあるんじゃないだろうか。
 先輩は、苦笑いしながら、私の頭を元の位置に戻した。
「――言っただろ、普通の家じゃ天井が近いんだよ、オレは」
「で、でも、でも!こんなトコ、スゴイお金持ちの人が住むようなトコじゃ……」
「お前の基準で量るな。――……まあ、ちょっとした伝手(・・)で、割安にしてもらってんだ」
「伝手?」
 私がキョトンとして聞き返すと、先輩は、ごまかすように頭をポンと叩いた。
「まあ、突っ込んでくれるな。言っとくけど、正規の手続き踏んでるからな」
「そ、そういう心配はしてませんけど……」
「そうか」
 先輩は、口元を上げると、自動ドアをくぐり、エントランスで部屋番号を押してオートロックの扉を開けた。
 私は、キョロキョロと見回しながら、後をついて行き、エレベーターに乗り込む。
 そして、フワリ、と、浮遊感を感じている間に到着。

「……最上階!!!」

 ――そう。
 思わず叫んでしまったが――到着したのは、最上階――三十階だった。

 私は、先輩を見上げ、顔をしかめてしまう。
「……何だ」
「……先輩……何か、アヤシイ仕事とか……」
「アホか。誰がするか、そんなモン」
「ですよねぇ……」
 ――じゃあ、普通の会社員が、こんなマンションに住める理由を説明して欲しいんだけれど。
 私が、昔住んでいたのは一戸建てだったけれど、こんな感じのマンションの相場くらい、聞いたコトはある。
「理由は――追々な」
「……秘密主義?」
「そういう訳じゃねぇけど」
 先輩は、部屋の鍵を開けながら、私を見下ろした。

「――そんな、楽しい話でも無ぇからよ」

 そう言った先輩の表情は、どこか固くて――。

「……別に……無理矢理聞こうなんて、思いませんー」

 私は、少しだけ冗談ぽくごまかした。
 すると、部屋に入った途端、後ろから抱き締められる。

「――……ありがとな、月見」

 先輩の事は――まだ、全部は知らない。
 それが、どこかさみしくて、私は、うなづきながら、そっと、その大きな手に触れた。
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