甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
エレベーターに二人で乗り込み、会議室がある十二階のボタンを、先輩が押す。
片手で段ボール箱を抱えられるくらいなら、私が両手で持っても平気だと思うのに。
そうは思っても――口から言葉が出てきてくれない。
ついこの間までできていた、軽口の応酬すら、できないなんて――やっぱり、告白なんか、しなきゃ良かった。
後悔している間に、エレベーターは到着する。
先に先輩が下り、私が後に続く。
そして、すぐに見えた、まだ誰も来ていない第一会議室に入ると、先輩は、長机に段ボール箱を置いた。
「――……ありがとうございます」
それだけ言うと、資料を箱から出し、机に並べていく。
――どうせなら、タブレットで共有すれば良いのに。
けれど、どうも、紙であるコトに意味があるようで、過去に進言した人はいたらしいが、未だに変わるコトは無かった。
人数分の資料を置き、会議室を見回す。
一応、スクリーンもセットしてあるし、大丈夫な――はず。
私は、空いた段ボール箱に手を伸ばそうとするが、再び、先輩に先を越された。
「……持って行きます」
「別に構わねぇよ」
「構います!」
半ば意地になって箱を奪い返そうとする。
けれど――力の差は歴然で、片手で持っている先輩は、ビクともしない。
「私が持って行くんですー!」
「……あのなぁ……こんなモンで意地になるなって」
そう言って、先輩は、空いていた右手で、私の頭を軽くたたいた。
その感触に――一瞬で、涙が浮かぶ。
「――……おい、津雲田?」
「……じ……じゃあ、お願いしますっ……!」
私は、うつむいて顔を隠そうとするが、あっさりと止められた。
そっと、頬に触れる大きな手は、そっと、流れ始めた涙を拭う。
「……泣くなって」
「だ、だって……っ……」
「仕事中だ。切り替えろ――は、無理だろうが、せめて、平気な顔くらい作ってくれ」
先輩は、ゆっくりと頬を撫でながら、気まずそうに言う。
「……で、できるワケ、無いじゃないですかぁ……」
こっちは、振られたてホヤホヤ。
泣くなって言う方が、無理なんだから!
唇を噛みながら訴えるが、先輩は、手を離してはくれない。
――そんな風にしたら、あきらめきれないじゃない……。
「けどなぁ……」
弱り果てる先輩に、私は叫んで返す。
「もう、放っておいてください!ていうか、ちゃんと振ってください!――中途半端に、優しくしないでください‼」
「――……っ……」
私は、先輩の手を振り払うと、自分で頬を拭って無理矢理涙を止める。
「つ――」
「そしたら、ちゃんと、未練なく辞めますから」
「は?」
先輩は、心底驚いたように、私を見下ろす。
「……何で辞めるんだよ」
――”何で”?
私は、振られた相手と平気で仕事ができるような、強い人間じゃない。
――だから――逃げるんだ。
――……逃げて――……また、以前みたいに、マチアプで、私だけを好きでいてくれる男を探すんだ。
――……もう、こんな、苦しい想いはしたくないから――……。
呆然としている先輩に頭を下げると、私は、会議室を飛び出す。
そして、すぐに到着したエレベーターに乗り込むと、ロッカールームまで下りて行った。
落ち着くまで隠れてたら、怒られるかな……。
でも、こんな気持ちで、仕事なんて――先輩のそばになんて、いられない。
私は、ロッカールームに入ると、隅の方でヒザを抱えて座り込んで、目をキツくつむる。
――……全部……夢だったら、良かったのに……。
両親を失ったコトも、会社や財産を奪われたコトも――先輩に振られたコトも――……。
――全部、全部……夢であってほしかった。
片手で段ボール箱を抱えられるくらいなら、私が両手で持っても平気だと思うのに。
そうは思っても――口から言葉が出てきてくれない。
ついこの間までできていた、軽口の応酬すら、できないなんて――やっぱり、告白なんか、しなきゃ良かった。
後悔している間に、エレベーターは到着する。
先に先輩が下り、私が後に続く。
そして、すぐに見えた、まだ誰も来ていない第一会議室に入ると、先輩は、長机に段ボール箱を置いた。
「――……ありがとうございます」
それだけ言うと、資料を箱から出し、机に並べていく。
――どうせなら、タブレットで共有すれば良いのに。
けれど、どうも、紙であるコトに意味があるようで、過去に進言した人はいたらしいが、未だに変わるコトは無かった。
人数分の資料を置き、会議室を見回す。
一応、スクリーンもセットしてあるし、大丈夫な――はず。
私は、空いた段ボール箱に手を伸ばそうとするが、再び、先輩に先を越された。
「……持って行きます」
「別に構わねぇよ」
「構います!」
半ば意地になって箱を奪い返そうとする。
けれど――力の差は歴然で、片手で持っている先輩は、ビクともしない。
「私が持って行くんですー!」
「……あのなぁ……こんなモンで意地になるなって」
そう言って、先輩は、空いていた右手で、私の頭を軽くたたいた。
その感触に――一瞬で、涙が浮かぶ。
「――……おい、津雲田?」
「……じ……じゃあ、お願いしますっ……!」
私は、うつむいて顔を隠そうとするが、あっさりと止められた。
そっと、頬に触れる大きな手は、そっと、流れ始めた涙を拭う。
「……泣くなって」
「だ、だって……っ……」
「仕事中だ。切り替えろ――は、無理だろうが、せめて、平気な顔くらい作ってくれ」
先輩は、ゆっくりと頬を撫でながら、気まずそうに言う。
「……で、できるワケ、無いじゃないですかぁ……」
こっちは、振られたてホヤホヤ。
泣くなって言う方が、無理なんだから!
唇を噛みながら訴えるが、先輩は、手を離してはくれない。
――そんな風にしたら、あきらめきれないじゃない……。
「けどなぁ……」
弱り果てる先輩に、私は叫んで返す。
「もう、放っておいてください!ていうか、ちゃんと振ってください!――中途半端に、優しくしないでください‼」
「――……っ……」
私は、先輩の手を振り払うと、自分で頬を拭って無理矢理涙を止める。
「つ――」
「そしたら、ちゃんと、未練なく辞めますから」
「は?」
先輩は、心底驚いたように、私を見下ろす。
「……何で辞めるんだよ」
――”何で”?
私は、振られた相手と平気で仕事ができるような、強い人間じゃない。
――だから――逃げるんだ。
――……逃げて――……また、以前みたいに、マチアプで、私だけを好きでいてくれる男を探すんだ。
――……もう、こんな、苦しい想いはしたくないから――……。
呆然としている先輩に頭を下げると、私は、会議室を飛び出す。
そして、すぐに到着したエレベーターに乗り込むと、ロッカールームまで下りて行った。
落ち着くまで隠れてたら、怒られるかな……。
でも、こんな気持ちで、仕事なんて――先輩のそばになんて、いられない。
私は、ロッカールームに入ると、隅の方でヒザを抱えて座り込んで、目をキツくつむる。
――……全部……夢だったら、良かったのに……。
両親を失ったコトも、会社や財産を奪われたコトも――先輩に振られたコトも――……。
――全部、全部……夢であってほしかった。