甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 ――やっぱり……まだ、気まずさが勝ってしまうな……。

 私は、一人、うつむいたままエレベーターを待つ。
 けれど。

「おい、コラ、津雲田!」

「――っ……!」

 先輩が追いかけてきてくるので、アワアワとエレベーターの階数表示と交互に見た。
 すると、ちょうどドアが開いたので、急いで乗り込み、”閉”のボタンを押す。
 ――ああ、もう!こんなコトでも無ければ、押せた感動に浸れるのに!
 私は、大きく息を吐くと、不意に人の気配を感じ、我に返って振り返る。

「……津雲田さん、何してんの」

「……ひ、平木……くん……」

 彼は、小さな箱の角に寄りかかりながら、若干あきれたように、そう言った。
 私は、肩をすくめて縮こまる。
「……あ、あの、ちょっと……」
「主任、用あるみたいだったけど」
 どうやら、今のヤツを見られたようで、気まずさに視線を下げた。
「……い、良いの。……聞きたくないヤツだし……」
「何それ。怒られるようなコトでもした?」
 その問いかけには、首を振る。
 ――怒られる方が、どんなに良かったか。
 私は、そう思うと、口を閉じる。
 平木くんは、何かを感じ取ったようで、バツが悪そうに言った。
「あー……ケンカなら、あんまり仕事に影響出さない程度にしてくれよな。ただでさえ、同じ部署の上司と部下で付き合ってるとか――周りが気まずいじゃん」
「そ、そういうワケじゃ……」
 ――ああ、でも、そうか。
 そういう風に見られるのか。
 あっという間に、エレベーターは二階に到着。
 女性社員専用ロッカールームの階なので、私が頭を下げて降りようとすると、平木くんは、ずい、と、顔を近づけてきた。

「ま、別れる予定なら、メシ、行かねぇ?」

「へ?」

「前、絡んだおわび的な?」

「い、いえ、私……」

 ――そもそも、ホントは付き合っているどころか、振られてますんで!

 そう、自分で自分を刺してしまい、涙がにじんできた。
 平木くんは、敏感にそれに気づく。
「……あー……じゃあ、相談?」
「え?」
「何か煮詰まってるんなら、少しくらい話聞くけど?」
「……え」
一階(した)のロビーで待ってるからさ、考えてみてよ」
 言うだけ言って、彼は、エレベーターのドアを閉める。
 私は、ポカン、と、それを見送るが、次には踵を返し、ロッカールームに飛び込んだ。
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