甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
再び、地下の一般書類倉庫に、池之島さんと二人、エレベーターで降りていく。
その間の空気は、ヒリヒリとしていて、肌に痛かった。
数十秒間のはずが――数十分のように感じてしまい、私は、ドアが開くと、かすかに息を吐く。
「ちょっと、開けてくれない」
「あ、う、うん」
私は、顎でドアを指した池之島さんに、うなづいて返すと全開にした。
「し、閉めて、いい……?」
さっさと中に入って、長机に箱を置いた彼女に尋ねると、あっさりと鼻であしらわれる。
「何でいちいち聞くのよ、アンタは」
「え、あ……うん……」
私は、答えにならない言葉をつぶやきながら、ドアを閉めた。
「さっさと終わらせるわよ」
「――え、あ、あの……」
「何よ」
「……何の、資料……?」
確か、ただの資料整理としか書いていなかったはず。
池之島さんは、私を見下ろすと、ふてくされたように言った。
「――今度は、主任に、ちゃんと指示されたわよ。今期の伝票とか、工場からの書類とか――もうすぐ決算だから、今期の分を種別ごとに片付けてくれって」
「そ……そう……」
――先輩――……池之島さんに、仕事頼むんだ。
私が、だまされたの、知ってるのに……。
思わず、そんな思いがよぎり、視線が下がる。
すると、彼女は、小馬鹿にしたような口調で言った。
「何よ、日水主任が、アタシに仕事頼むのが、気に入らないワケ?」
「えっ、そ、そういうんじゃ……」
「ちゃんと、昨日、クギさされたわよ。――次、アンタに嫌がらせしたら、人事に上げるって」
「え」
「まあ、別に、そこまで言われて続けるほど、バカじゃないわよ」
ケロッと言われ、私は、目を丸くする。
「え、あ、あの……池之島さん……私のコト、気に入らないんじゃ……」
「ええ、そうよ」
「――……へ……」
あまりにバッサリと言われ、ポカンと口が開いてしまった。
――え、え?どういうコト?
――意味わかんないんですけど?
こんな風に、面と向かって気に入らないとか――初めて言われた。
「どうせ、平木から聞いてるんじゃないの?」
「え、あ」
――それは、そう、だけど……うなづくワケにもいかない。
私は、彼女に、恐る恐る尋ねる。
「でも、な、何で……」
「は?」
いぶかし気に聞き返され、思わず肩を上げた。
「何言ってんの。何で、アンタに理由言わなきゃいけないのよ」
そう言って、池之島さんは、私に背を向けて書類を箱から出して整え始めた。
けれど、言われた私は、気になって仕事どころではないのだ。
「あ、あのっ……」
振り返りもしない彼女に、私は、続けた。
――平木くんの言うコトは、本当なのか――。
「せ、先輩のコト……好き、なの?」
こんな風に尋ねられるとは思っていなかったのか、彼女は、一瞬だけ驚いたように、私に視線を向けた。
そして、大きくため息。
「――あ……の……」
「まあ、確かに、お気に入りではあるけどねー」
肯定の返事に、息が止まりそうになった。
けれど、彼女は、あっさりと続ける。
「アタシよりも大きい人なんて、そうそうお目にかからないし――何より、公平な人だと思ってたから」
「――え?」
「外見じゃなくて、中身を見てくれる。だから、お気に入りだった」
そう言って、池之島さんは、私を睨む。
「でも――結局、お嬢様と付き合うなんて、思ってた以上に俗物。今さら、どうでも良いわ」
「なっ……」
私は、カッとなって言い返そうと口を開くが、させまいとばかりに、続けられた。
「大体、何か勘違いしてるけど、それが理由じゃないわよ」
「え?」
――……じゃあ……何?
どう反応していいかわからず、ただ、彼女を見つめる。
すると、その視線が、一層強くなった。
その間の空気は、ヒリヒリとしていて、肌に痛かった。
数十秒間のはずが――数十分のように感じてしまい、私は、ドアが開くと、かすかに息を吐く。
「ちょっと、開けてくれない」
「あ、う、うん」
私は、顎でドアを指した池之島さんに、うなづいて返すと全開にした。
「し、閉めて、いい……?」
さっさと中に入って、長机に箱を置いた彼女に尋ねると、あっさりと鼻であしらわれる。
「何でいちいち聞くのよ、アンタは」
「え、あ……うん……」
私は、答えにならない言葉をつぶやきながら、ドアを閉めた。
「さっさと終わらせるわよ」
「――え、あ、あの……」
「何よ」
「……何の、資料……?」
確か、ただの資料整理としか書いていなかったはず。
池之島さんは、私を見下ろすと、ふてくされたように言った。
「――今度は、主任に、ちゃんと指示されたわよ。今期の伝票とか、工場からの書類とか――もうすぐ決算だから、今期の分を種別ごとに片付けてくれって」
「そ……そう……」
――先輩――……池之島さんに、仕事頼むんだ。
私が、だまされたの、知ってるのに……。
思わず、そんな思いがよぎり、視線が下がる。
すると、彼女は、小馬鹿にしたような口調で言った。
「何よ、日水主任が、アタシに仕事頼むのが、気に入らないワケ?」
「えっ、そ、そういうんじゃ……」
「ちゃんと、昨日、クギさされたわよ。――次、アンタに嫌がらせしたら、人事に上げるって」
「え」
「まあ、別に、そこまで言われて続けるほど、バカじゃないわよ」
ケロッと言われ、私は、目を丸くする。
「え、あ、あの……池之島さん……私のコト、気に入らないんじゃ……」
「ええ、そうよ」
「――……へ……」
あまりにバッサリと言われ、ポカンと口が開いてしまった。
――え、え?どういうコト?
――意味わかんないんですけど?
こんな風に、面と向かって気に入らないとか――初めて言われた。
「どうせ、平木から聞いてるんじゃないの?」
「え、あ」
――それは、そう、だけど……うなづくワケにもいかない。
私は、彼女に、恐る恐る尋ねる。
「でも、な、何で……」
「は?」
いぶかし気に聞き返され、思わず肩を上げた。
「何言ってんの。何で、アンタに理由言わなきゃいけないのよ」
そう言って、池之島さんは、私に背を向けて書類を箱から出して整え始めた。
けれど、言われた私は、気になって仕事どころではないのだ。
「あ、あのっ……」
振り返りもしない彼女に、私は、続けた。
――平木くんの言うコトは、本当なのか――。
「せ、先輩のコト……好き、なの?」
こんな風に尋ねられるとは思っていなかったのか、彼女は、一瞬だけ驚いたように、私に視線を向けた。
そして、大きくため息。
「――あ……の……」
「まあ、確かに、お気に入りではあるけどねー」
肯定の返事に、息が止まりそうになった。
けれど、彼女は、あっさりと続ける。
「アタシよりも大きい人なんて、そうそうお目にかからないし――何より、公平な人だと思ってたから」
「――え?」
「外見じゃなくて、中身を見てくれる。だから、お気に入りだった」
そう言って、池之島さんは、私を睨む。
「でも――結局、お嬢様と付き合うなんて、思ってた以上に俗物。今さら、どうでも良いわ」
「なっ……」
私は、カッとなって言い返そうと口を開くが、させまいとばかりに、続けられた。
「大体、何か勘違いしてるけど、それが理由じゃないわよ」
「え?」
――……じゃあ……何?
どう反応していいかわからず、ただ、彼女を見つめる。
すると、その視線が、一層強くなった。