甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 お昼休み、朝寄って来た、いつものコンビニで買ったサンドウィッチとミニサラダを広げ、私は一人、食堂の隅っこに陣取る。
 いつの間にか、コレが定位置なのは――入社時に、既に身バレしているからで、好んで話しかけて来るのは――

「津雲田、お前、よくその量で()つなぁ……」

「――日水先輩」

 あきれたように言いながら、先輩は私の前に、ドカリ、と、座る。
 それだけで、周囲の視線を遮ってくれるように感じ、少しだけ安心してしまうのだ。
 そんな気持ちが、何となく気恥ずかしく感じ、ごまかすように先輩に言った。
「……先輩は、よく、その量が入りますね」
 彼の目の前には、大盛りのカレーライス弁当、から揚げ、サラダ、更にはおにぎりが、ズラリと広げられている。
 そして、それらを、私の数倍の速さで口の中に入れていくけれど――その仕草は、とても綺麗だ。
 すると、視線に気づいた先輩が、眉をひそめて言った。
「……何だ、食欲無いのか」
「え、あ、いえ。……先輩が早食い過ぎるんです。身体に悪くないですか」
「長年の習慣だ。――にしても、お前は、いつも小食だな」
「……別に、普通ですけど」
 そう言いながら、私は、サンドウィッチを、ちまちまかじる。
 小食という訳でも無いけれど――もう、削れるのは、食費くらいしか無いのだから仕方ない。
 この一年、職場に着ていく服を、今までのような感覚で買っていたので、自分の貯金など、あっという間に底をついてしまったのだ。
 元、”社長令嬢”などという肩書がかすむくらい、常に金欠状態。
 かろうじて、ライフラインが保たれているのに、感謝しなければならないレベルになっているのだから。

「ごちそうさまでした」

 私が手を合わせて終えると、日水先輩は、それを待っていたかのように立ち上がり、ゴミを捨てに行く。
 そして、戻って来るかと思ったら、そのまま食堂を出て行った。

 ――……もしかして、本当に、ガードしてくれていたのかな……?

 そう思ってしまえば――心臓が、また、早鐘を打つ。

 ――いや、無い無い。好みじゃない。
 ――そもそも、あんなデカい男、対象外。

 そんな風に自分に言い聞かせるが――あの気遣いに助けられているのは、否定できない。

 それは――たぶん、私が、出来の悪い後輩だからなんだろうとは思う。

 ――……先輩は、面倒見の良い人だから。
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