甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
LIFE.23
結局、タイムカードを定時過ぎに切ってはみたものの、泣き止むまでに相当時間がかかってしまい、帰りのバスは、最終一個手前。
いつもの顔ぶれに、どこか安心してしまいながら乗り込む。
最近は、こんな時間でも、増沢に連絡を入れるコトは無くなった。
――いい加減、慣れないとだもんね……。
一応、絶対に持つように言われている防犯ブザーはバッグに着けているし、スマホのアプリにも防犯系のものは入れている。
ぼんやりと、窓の外、流れる景色をただ見続けるだけ。
少しして、いつものバス停が近いのに気づき、私は、急いでボタンを押す。
以前なら張り切っていたのに――今は、もう、慣れたものだ。
そして、毎日のようにコンビニに向かい、広神さんと顔を合わせる。
彼は、一瞬だけ固まったけれど、すぐにいつも通りに話しかけてきた。
「お帰りー、津雲田さん」
「あ、ハ、ハイ……」
未だに、この人の距離感に慣れないでいるが、どうやら、それは面白がられているようだ。
クッ、と、喉で笑い、今日のおススメは――などと、世間話を少しだけする。
美善さんとのコトを相談する気も無いのはわかっているらしく、あれから、何を言われるワケでも無かったのは、ありがたかった。
「あ、津雲田さん、待って待って」
「え」
夕飯と明日の朝ご飯を買ってコンビニを後にしようとすると、不意に、呼び止められ振り返る。
すると、広神さんが、レジから出てきた。
「コレ、キャンペーン商品」
「――え」
彼が手渡してきたのは、可愛い小さなマスコットキャラが入ったビニール袋。
どうやら、対象商品を買っていたようだ。
「一応、渡すの必須だからさ。残ってると面倒なんだよね」
「あ、ありがとうございます……」
彼は、苦笑いで肩をすくめる。
「少しは、癒されな。結構キテるみたいだし」
「――……いえ……」
私は、手に持ったそれを眺め、緩々と首を振りかけ――止まってしまう。
「つ、津雲田さん」
「す、すみません……」
こぼれはじめた涙は、次々と流れ始め、慌ててこすると、私は広神さんに頭を下げた。
こらえきれない嗚咽を漏らしながら、コンビニを出て歩き出す――が。
「さすがにダメ。送るわ」
「――え」
彼は、エプロンを外し、制服のまま、私の手を取った。
「あ、あの」
「店長には言ってきたから」
「でも」
「泣いてる女の子、暗い中歩かせられないでしょ」
「――でも」
「いいから。お隣さんに何かあったら、寝覚め悪いんだよ」
そう言われると、返す言葉に詰まった。
彼は、そのままコンビニを出て、アパートへの短い距離を私を連れて歩いて行く。
その間、私は涙を見られたくなくて、うつむいたままだった。
「――月見?」
ほんの数分の距離を長く感じながら到着すると、不意に聞こえてきた声に、胸が締め付けられた。
「あ、彼氏サン」
「――……美善さん」
けれど、すぐに、強い力で広神さんの手から引き離され、私は、美善さんに抱き留められる。
「……どういうつもりだ、アンタ?」
「み、美善さん」
何を誤解しているのか、彼は、地を這うような声で広神さんに言うので、私は慌てて止めようとしたが。
「どういうつもり、って、こっちのセリフですけど?」
「は?」
「ひ、広神さん、何をっ……⁉」
まるで、煽るような言い方に、私は更に慌ててしまうが、彼は、美善さんの前に立つと、あっさりと言った。
「”彼女”泣かせておいて、浮気でも疑ってんの?こっちは、勤務時間に、厚意で送ってるんだけど」
「――……っ……⁉」
「広神さんっ!」
私は、急いで涙をこすると、二人の間に入る。
そして、彼に頭を下げた。
「……あ、ありがとうございました。……お礼は、また、後日で……」
「別にいらないって。言ったでしょ、お隣さんに何かあったら、寝覚めが悪いって」
「……ハイ……」
彼は、それだけ言うと、じゃ、と、踵を返し、コンビニに戻って行った。
いつもの顔ぶれに、どこか安心してしまいながら乗り込む。
最近は、こんな時間でも、増沢に連絡を入れるコトは無くなった。
――いい加減、慣れないとだもんね……。
一応、絶対に持つように言われている防犯ブザーはバッグに着けているし、スマホのアプリにも防犯系のものは入れている。
ぼんやりと、窓の外、流れる景色をただ見続けるだけ。
少しして、いつものバス停が近いのに気づき、私は、急いでボタンを押す。
以前なら張り切っていたのに――今は、もう、慣れたものだ。
そして、毎日のようにコンビニに向かい、広神さんと顔を合わせる。
彼は、一瞬だけ固まったけれど、すぐにいつも通りに話しかけてきた。
「お帰りー、津雲田さん」
「あ、ハ、ハイ……」
未だに、この人の距離感に慣れないでいるが、どうやら、それは面白がられているようだ。
クッ、と、喉で笑い、今日のおススメは――などと、世間話を少しだけする。
美善さんとのコトを相談する気も無いのはわかっているらしく、あれから、何を言われるワケでも無かったのは、ありがたかった。
「あ、津雲田さん、待って待って」
「え」
夕飯と明日の朝ご飯を買ってコンビニを後にしようとすると、不意に、呼び止められ振り返る。
すると、広神さんが、レジから出てきた。
「コレ、キャンペーン商品」
「――え」
彼が手渡してきたのは、可愛い小さなマスコットキャラが入ったビニール袋。
どうやら、対象商品を買っていたようだ。
「一応、渡すの必須だからさ。残ってると面倒なんだよね」
「あ、ありがとうございます……」
彼は、苦笑いで肩をすくめる。
「少しは、癒されな。結構キテるみたいだし」
「――……いえ……」
私は、手に持ったそれを眺め、緩々と首を振りかけ――止まってしまう。
「つ、津雲田さん」
「す、すみません……」
こぼれはじめた涙は、次々と流れ始め、慌ててこすると、私は広神さんに頭を下げた。
こらえきれない嗚咽を漏らしながら、コンビニを出て歩き出す――が。
「さすがにダメ。送るわ」
「――え」
彼は、エプロンを外し、制服のまま、私の手を取った。
「あ、あの」
「店長には言ってきたから」
「でも」
「泣いてる女の子、暗い中歩かせられないでしょ」
「――でも」
「いいから。お隣さんに何かあったら、寝覚め悪いんだよ」
そう言われると、返す言葉に詰まった。
彼は、そのままコンビニを出て、アパートへの短い距離を私を連れて歩いて行く。
その間、私は涙を見られたくなくて、うつむいたままだった。
「――月見?」
ほんの数分の距離を長く感じながら到着すると、不意に聞こえてきた声に、胸が締め付けられた。
「あ、彼氏サン」
「――……美善さん」
けれど、すぐに、強い力で広神さんの手から引き離され、私は、美善さんに抱き留められる。
「……どういうつもりだ、アンタ?」
「み、美善さん」
何を誤解しているのか、彼は、地を這うような声で広神さんに言うので、私は慌てて止めようとしたが。
「どういうつもり、って、こっちのセリフですけど?」
「は?」
「ひ、広神さん、何をっ……⁉」
まるで、煽るような言い方に、私は更に慌ててしまうが、彼は、美善さんの前に立つと、あっさりと言った。
「”彼女”泣かせておいて、浮気でも疑ってんの?こっちは、勤務時間に、厚意で送ってるんだけど」
「――……っ……⁉」
「広神さんっ!」
私は、急いで涙をこすると、二人の間に入る。
そして、彼に頭を下げた。
「……あ、ありがとうございました。……お礼は、また、後日で……」
「別にいらないって。言ったでしょ、お隣さんに何かあったら、寝覚めが悪いって」
「……ハイ……」
彼は、それだけ言うと、じゃ、と、踵を返し、コンビニに戻って行った。