世界は地獄でできている
最後の別れ
彼女の遺体は腐敗がかなり進んでいたこともあり、足早に火葬された。
火葬場には、家族と、すぐに駆けつけられた数人の親戚だけ。
香の煙が立ちこめ、夏の湿気と混ざり合って、鼻の奥に鉄のような匂いが張りついた。
彼女の家族が、彼女を含め5人全員揃ったのは約6年ぶりのことだった。
それが、最期の別れの場になるとは、誰も思っていなかった。
「一緒に焼いてください」
父が、茶封筒の中から折り畳まれた小さなエコー写真を取り出し、係の者に手渡した。
「え……なんで? 誰の?」
母の隣にいた兄が、慌てたように尋ねる。
「朝日の子やで……。あの子、2年前に赤ちゃん堕してんねん」
母の声は震えていた。
「は……? まじで……」
「……前の会社の人との子やって」
「えぇ……」
「……遺書に、エコー写真も一緒に焼いてほしいって書いてあってんて」
誰も次の言葉を探せなかった。
その場に漂うのは、焦げた線香と、人の脂が熱で変わるような独特の匂いだけだった。
「……会えたんかなぁ……赤ちゃんに。お母さん、赤ちゃんの分まで強く生きてって言ったんやけどなぁ……」
母は涙が出なかった。
感情の蛇口が壊れたように、何も出てこなかった。
目の前の光景を、まるで他人事のように眺めていた。
「母さん、朝日にお別れ言わんの?」
「うん……ちょっと……もう、いいわぁ」
母だけが、娘の顔を見なかった。
見届けることも、触れることもなく、分厚い鉄の扉がゆっくり閉まるのを見ていた。
「またなぁ……朝日」
父は最後に娘の頭を撫でて、そう呟いた。
火葬場には、家族と、すぐに駆けつけられた数人の親戚だけ。
香の煙が立ちこめ、夏の湿気と混ざり合って、鼻の奥に鉄のような匂いが張りついた。
彼女の家族が、彼女を含め5人全員揃ったのは約6年ぶりのことだった。
それが、最期の別れの場になるとは、誰も思っていなかった。
「一緒に焼いてください」
父が、茶封筒の中から折り畳まれた小さなエコー写真を取り出し、係の者に手渡した。
「え……なんで? 誰の?」
母の隣にいた兄が、慌てたように尋ねる。
「朝日の子やで……。あの子、2年前に赤ちゃん堕してんねん」
母の声は震えていた。
「は……? まじで……」
「……前の会社の人との子やって」
「えぇ……」
「……遺書に、エコー写真も一緒に焼いてほしいって書いてあってんて」
誰も次の言葉を探せなかった。
その場に漂うのは、焦げた線香と、人の脂が熱で変わるような独特の匂いだけだった。
「……会えたんかなぁ……赤ちゃんに。お母さん、赤ちゃんの分まで強く生きてって言ったんやけどなぁ……」
母は涙が出なかった。
感情の蛇口が壊れたように、何も出てこなかった。
目の前の光景を、まるで他人事のように眺めていた。
「母さん、朝日にお別れ言わんの?」
「うん……ちょっと……もう、いいわぁ」
母だけが、娘の顔を見なかった。
見届けることも、触れることもなく、分厚い鉄の扉がゆっくり閉まるのを見ていた。
「またなぁ……朝日」
父は最後に娘の頭を撫でて、そう呟いた。