きらきらしてきれいだった【アルトレコード】
 太平洋の片隅で、ただただ広い海原が広がる。陸地は徐々に遠ざかる一方だ。
 だけど、ぼうっとしてはいられない。
「アルト……」
 かおるは潜るためにライフジャケットを脱ごうとした。が、その手が止まる。

 アルトはきっと、自分が潜れる程度のところにいない。これを脱いで確認に行くなんて自殺行為だ。
 だが、どうしたらいいのだろう。
 悩むうちにも波にもまれ、流される。
 もはやアルトが落ちた地点からかなりずれてしまったのではないだろうか。

 このまま流され、帰れないまま死ぬのだろうか。
 ぞっとした。

 だが、すぐに死を上回る恐怖がかおるを襲う。
 そうなったらアルトはどうなるのだろう。
 充電はまだある。だが、いつかはその電池がなくなる。そうなったら……。

「絶対、助ける」
 そうこぼしたかおるは思考を巡らし、衛星通信端末がデニムのポケットに入っているのを思い出した。万が一、と北斗に言われたそれが起きてしまった。
 落とさないように気を付けて取り出し、電話をかける。

 じれったいコール音のあと、はい、と北斗の声がした。
「北斗さん! 大変です!」
 かおるは名乗るのも忘れて叫んだ。

「君? どうしたの?」
「アルトが海に落ちてしまって、どこに行ったのかわからなくて」

「落ち着いて。君は今どこにいるの?」
「海の中です」
「は?」
 北斗の驚く声が聞こえた。
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