きらきらしてきれいだった【アルトレコード】
 落ちた自分はどうなるのだろう。
 アルトは顔を恐怖と悲しみに歪める。

 最初、先生が磯で自分を落としたとき、海の中は綺麗だと思った。
 なのに、今は怖くて仕方がない。

 もう先生にも北斗にも会えない……このまま電源が落ちて、消えるんだ。
 それはきっと、人間でいうところの「死」にほかならない。
 アルトはぞっとした。

 「死」なんて体験したことはない。物語で接したことはあっても、疑似体験とすら言えない。
 本当の死って、どれほど怖いんだろう。どれほど悲しいんだろう。

 これまで読んだ本や見た映画の登場人物は「死」に触れるとほとんどの人が悲しみ、中には怒り出す人もいた。
 先生は「死」を知っているんだろうか。ぼくが「死」んだら悲しんでくれるだろうか。

 バックアップがとってある。だから「ぼく」はある意味で再生できる。だけど、そしたらここにいる「ぼく」はなんだろう。バックアップって、人間でいうところのクローン人間なんじゃないだろうか。それって本当に「ぼく」なの? 「ぼく」はもう二度と先生に会えないの?

 アルトは思わず自分を抱きしめていた。
 ううん。きっと先生は助けに来てくれる。北斗もそう。
 先生が見せてくれたどんな物語でも、主人公たちは大切な仲間や家族を見捨てない。だから、きっと……。

 でも、先生にとってぼくが大切じゃなかったら?
 思い付いて、アルトは海よりも「死」よりも深く恐怖を感じた。

「先生……助けに来て……」
 アルトは涙をこぼし、うずくまった。
 そうしてどれくらいたっただろうか。
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