Someday 〜未来で逢いましょう〜
『思い切り何か』
和也の言葉が頭の中にリピートされる。
あの説明を聞いて以来、誰かと旅行する計画を思い浮かべると、その角に【時間旅行】がチラついてくることが鬱陶しかった。何となく行ってはいけない気がしていた。

残業になってしまった仕事を終え、今日は少し疲れていつものドラッグストアチェックをパスして家に帰ると、既に莉子が帰宅していた。
「もう帰ってたんだ。すぐに夕飯の支度するから」
急いで手を洗ってタオルで拭き、作り置いていた肉じゃがを温め、お味噌汁だけ作ってすぐに食卓に並べ、夕飯の準備は出来た。
食べ始めてまもなく、莉子が言い出した。
「お母さん。私ね、今日時間旅行の話聞いてきた」
美紗子は絶句した。
「誓約書に書いた名前見て、もしかして藤堂さんの娘さんですか?って聞かれた。この説明は1年に1回もない時があるのに、数週間で2回も説明なんて初めてですって笑ってた」
「なんで…?」
美紗子は驚いて大きく声を張り上げた。
「この前お母さんから時間旅行のこと聞いた時、意外過ぎて驚いたし、未知過ぎて怖いことに手を出されるのは正直いやだから、諦めて欲しいと思ったんだけど…いつもすぐ諦めがちなお母さんが、そんな面倒な説明だって知った上で誓約書書いてまで気になるってどんなものなのか私も知る必要があるって思ったの」
「それであなたまで説明受けたっていうの?」
「本当に面倒だった。監視カメラまで撮られるのに、行ける場所と代金くらいしか教えてもらえないし」
莉子が不満そうに吐き捨てる言い方に、反対なのだと美紗子は感じた。
「正直心配。いくらこれまで問題は発生してないって聞いても安心できない。私がついていこうとも思ったけど、それはお母さんの独り立ちにならないと思うし」
「独り立ちって…別にお母さん、莉子に依存してないわよ」
「優先はしてきたでしょ?親なら当たり前のことかもしれないけど、私も一応一人前になったんだし、お母さんがせっかく自分からやってみたいって踏み出したことなら、背中押そうかなと思った。でも、過去に行って何するの?」
「それは…」
「そうか、そういうのもきっと言ったり聞いたりしちゃいけないんだよね」
「…こんなことにお父さんから頂いた大金を使ったらバチが当たるって思っちゃうのよ。しかもお父さんに本当の行き先を言えずに行くと思うと余計に罪悪感が膨らんで、行っちゃいけない気がしていたの」
莉子は一点を見つめ、少し考えてから言った。
「不安だけど…行って帰ってきた人が何人もちゃんといるってことだよね?公表されてないだけで。ならば信じる。どうだった?って旅の内容詳しく聞けないのはつまんないけど…考えてる行き先だけ聞いてもいい?」
「…ハワイに行きたいの」
「ハワイかぁ…私も小さい頃行ったんだよね、記憶はないけど。私がお供できれば安心だけど、残念ながら私は今のハワイの方が興味あるから。お母さんが気になること?心残りなこと?をスッキリさせておいでよ。人生に一度くらい思い切ってやっちゃえば?」
莉子は笑顔でバンッと美紗子の背中を叩いた。
「お父さんには内緒にしとく。あ、当たり前か。言ったらブラックリスト入りだ。もし、いない間にお父さんから何か聞かれたら、さすらいの一人旅って言っておく。だって嘘じゃないでしょ?」
娘の優しさに胸が熱くなるのを感じた。
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