青春リベンジ!!! エピローグ

「ありがとう、青春の亡霊たちへ」



朝の陽ざしが、アスファルトにぎらついていた。
私はマナトと一緒に、家の近くの公園にいた。

幼稚園バスを待つ間の時間。
ブランコの順番を待つ子どもたちの中に、
マナトが混ざっている。
ふわりと風が吹いて、あの日みたいな匂いがした。

――あの日。
高校生のころ、制服のまま、高尾と意味もなく坂を登って笑っていた。
ふみくんとふたり、講義を抜けて買い食いした大学生活。
どうしようもなくバカで、まっすぐで、泣いて笑って、心がぐちゃぐちゃだった日々。

それら全部が、私をここまで運んでくれた。

「ママ〜、見ててねー!」

マナトの声に、私は手を振る。
ふと、ポケットに入れたままのスマホが震えた。

――高尾からだった。

【今日そっちの方に来てるんだけど、少しだけ会える?】

私はスマホを見ながら、にやっと笑った。



午後。カフェのテラス席。

高尾はロールスロイスを降りたときのまんまの空気感で、隣に座っただけでちょっと笑えた。

「……マジで、おまえ変わんねぇな」

「変わってるってば。今はもう、“ナイナイ”って言わない大人です」

「それ、俺のトラウマな」

「ごめんってば〜」

笑いながら、でも私はちゃんと目を見て言った。

「……ありがとうね、高尾」

「ん?」

「ちゃんと、私のこと、好きでいてくれてたってこと。
それに気づけたのが、今の私にとっては一番の救いだった」

高尾は小さく笑った。

「まぁ……あの時代のムギと、今のムギが混ざった今のおまえが、なんか最強でちょっとズルいけどな」

「うん。あの頃を、もう一度見せてもらった気がしたよ」

「じゃあ、タイムスリップしてよかったじゃん」

「……うん。ふみくんともちゃんと向き合えたし。未来を変えずに、ちゃんと“選べた”気がする」

私はコップを両手で包んで、小さく言った。

「……もしかしたら、酔っ払って見た、長〜い夢だったのかもしれないけどね。ふふ」

高尾が、やれやれって感じで肩をすくめた。

「でもその夢の中で、俺のことめちゃくちゃ好きだったんだろ?」

「それはもう、すごかったよ」

「おーい、もっと詳しく頼むわ」

「やだよ、恥ずかしい」

「なに照れてんの。お互い、もうガキじゃないんだからさ」

笑って、私は少し肩を寄せた。



帰り際。高尾がぽつりと言った。

「なあムギ」

「なに?」

「おまえ、またタイムスリップすることあったらさ」

「……うん」

「そのときはまた、俺に本気で惚れてくれよな」

思わず、吹き出した。

「なにそれ、願望すぎるでしょ」

「だってムギ、すごかったんだろ?ラブラブだったんだろ?なら期待していいよな?」

「ばか!」

そう言いながらも、笑ってしまう私に――

高尾はちょっとだけ目を細めて、静かに言った。

「……幸せにな」

風が吹いた。
どこか懐かしい匂いがした。

私はそっと頷いた。


そんなやりとりをしながら、私は心の中でそっと言った。

――ありがとう、過去の私。
――ありがとう、青春の亡霊たち。

私はもう、前を向いて歩けるよ。
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