先生×秘密 〜season2

再会



職員室の空気が、いつもと少し違っていた。

「ねえ、新しい先生来るってほんと?」
「非常勤の人? 」「いや、常勤らしいよ」
「見た目イケオジらしい。ってか、さっき見かけた!」

女子の先生たちがざわつく中、コメはその声を右から左に流しながら、プリントを取りに廊下へ出た。
途中、何人かの生徒に「コメせんせー!」と声をかけられて、笑顔で返す。
明るく、軽やかに。そう、いつも通りに──。

……のはずだった。

角を曲がった先、階段を上がってくる長身の男性の姿が目に入った瞬間、コメは立ち止まった。
視線の先にいたのは、まぎれもなく、渡部だった。

黒のジャケットに白シャツ。乱れた前髪の下、変わらない鋭い眼差し。
けれどその瞳に、かつてより少しだけ影が差しているようにも見えた。

「……っ」

コメは思わず、持っていたプリントを胸に抱きしめるようにして固まった。
廊下のざわめきが遠のいて、心臓の音だけがやけにうるさく響いている。

彼も、コメの姿に気づいたようだった。
ふと立ち止まり、ほんのわずかに目を細める。
そして──

「……お久しぶりです」

それだけを静かに、でもはっきりと口にした。

声が、昔のままだった。

コメは、かろうじて会釈だけを返した。
言葉が出なかった。出せなかった。

そして、そのまま彼は通り過ぎていった。
すれ違うとき、ふわりとタバコの香りが混ざった空気が、懐かしさと一緒に胸を刺した。



夜。
残業で遅くなった職員室には、数人の先生しか残っていなかった。

書類の整理を終えて席を立とうとしたとき、ふと目の端に渡部の姿が入った。
窓のそばで、一人、夜の校庭をぼんやりと見つめている。

迷った末に、コメは声をかけず、その隣に立った。
そして、ぽつりとつぶやいた。

「……教育実習、行ったんですよ」
「……先生、いなかった」


渡部は、驚いたように横を向いた。
でもすぐに視線を伏せ、少し間をおいて答える。

「……そうか」
「……会いたかった」

その言葉に、コメは息をのんだ。
けれど、なにも言わずに目をそらす。
言えば、なにかが壊れそうで。

沈黙の中、窓の外の風だけが、ふたりの間を通り抜けた。
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