先生×秘密 〜season2

クリスマスの一歩手前

12月23日。祝日。
夕方の街はクリスマスの飾りに包まれて、どこもかしこも浮き足立っていた。

コメは、待ち合わせの場所で角谷を見つけると、小さく手を振った。

「待った?」

「いや、今来たとこ」

角谷は少し照れくさそうに笑って、手にしていたコンビニのコーヒーをコメに差し出した。

「寒いと思って。甘いやつ」

「ありがと……やさしいね」

ちょっとだけ、心があたたかくなる。

二人はそのまま駅近のレストランへ向かった。

***

料理はどれも美味しくて、会話も自然と弾んだ。

「今年、ほんとバタバタだったよね」

「うん、なんか濃かったなー。初めて担任持って、行事も目白押しで」

「でも、コメ先生すごかったよ。初担任とは思えなかった」

「え……そんなことないよ。必死だったし」

「進路指導も、頼りにしてる」

そう言って笑う角谷の目は、まっすぐだった。

(あぁ……こうやって言ってくれるのに)

胸の奥に、うっすらとした影が差し込む。

笑顔で返しながら、心のどこかが少しだけ揺れていた。

***

食後、ふたりは少し歩いた。

「ね、こっち行こうよ。イルミネーション、綺麗らしい」

角谷に手を引かれて向かった先は、静かな公園の中。

街路樹に飾られたイルミネーションが、風に揺れていた。

「来年の今ごろも、こうして歩いてるのかな」

角谷がぽつりと言った。

その言葉が、胸に突き刺さる。

来年の今ごろ——
自分は、どこにいるんだろう。

「……どうした?」

「ううん、なんでもない。……綺麗だね、イルミ」

そう答えるのが精一杯だった。

「……じゃあさ」

角谷がポケットから、細長い箱を取り出した。

「メリークリスマス」

中には、小さなネックレスが入っていた。
控えめなゴールドのペンダントトップ。派手すぎない、でも大人っぽいデザイン。

「似合うと思ってさ。……いつも頑張ってるから」

「……ありがとう。すごく、うれしい」

そう言って、ネックレスを手に取る。

ほんとうに、嬉しかった。
でも、心の中のざわめきは、完全には消えなかった。

帰り道、コメは夜空を見上げながら、そっとネックレスを握りしめた。

渡部先生からは、連絡はなかった。

でも、LINEの画面を何度も開いては、閉じて。
なにも送られてこない通知を、じっと待っていた。

角谷の手のぬくもりは、ちゃんと感じている。
でも、心の奥で、まだ何かが足りない気がしてしまう。

「……ダメだな、私」

その独り言は、冬の空に静かに消えていった。
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