先生×秘密 〜season2

すれ違いの、その先に

週末の夜、コメの部屋は
テレビはついているけれど、誰も内容なんて見ていない。

角谷はこたつの端に座り、ソファの背にゆったり寄りかかっている。
コメはその隣で、マグカップを持ち湯気にくもる眼鏡をぬぐいながら、仕事の資料をペラリとめくった。

「……あー、だめだ。コメ、すぐ“先生モード”になるな」

角谷が笑って言った。

「だって今、すごく伸びてきてる子がいてさ。受験でやる気になった瞬間って、絶対見逃したくないじゃん」

そう言って、また一枚プリントをめくる。
角谷は何も言わず、カップを持ち上げて静かに口をつけた。

しばらくの沈黙が流れたあと──角谷が、ぽつりと切り出す。

「……異動の話、ひきとめられてるって聞いた」

コメの手が、止まった。

「ああ……うん」

「……こんな大事な話、コメからじゃなくて、まわりから聞くなんてな」

角谷はそう言って、ゆっくり目を伏せた。

「……ごめん。言えなくしてた。俺が。……ごめんな」

コメも、すぐに首をふる。

「違うよ……。大変そうだったから。進路指導も忙しそうだし、疲れてるのに……これ以上、悩ませたくなくて」

「……俺、コメのことは大好きだ」

不意に角谷が言った。

まっすぐな声だった。
どこか、覚悟を乗せたような響きがあった。

「同じ年で、同期で。一緒に教壇に立ってきた。たぶんこれから、進路指導にも関わっていくだろ? 一緒に悩んで、一緒に試行錯誤して……そういう日々も、きっと面白いって思える。俺は、そう思う」

そして、もう一度、言葉を重ねた。

「……コメ、学校、残りなよ」

コメは、瞬きをした。

「でも、それだと……」

言いかけたその言葉を、角谷がかぶせた。

「コメ、そういうことだ」

静かな、でも強い声だった。

「バレないように、また一年過ごすの? そんなの……」

「違う。そうじゃない」

角谷の声が、わずかに震えていた。
俯いた彼の顔は見えない。

「……そっちじゃない」

コメの目に、涙が浮かんだ。

「……だったら、なに?」

「……わかんない。けど、俺は……コメと、ちゃんと向き合いたい。逃げないで、ちゃんと」

静かな空気が、二人の間に沈んでいった。

テレビの音だけが、部屋にかすかに流れていた。
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