先生×秘密 〜season2

月曜の朝、決意の紙を

月曜日の朝は、冬の光が眩しいほどに差し込んでいた。

羽多野コメは、一枚の紙を持って校長室の扉をノックした。

「失礼します……。遅れてすみません。異動希望調査の……提出、です」

校長は手元の書類に目を落としたまま、「ありがとう」と短く答えた。

それから、静かにその紙を受け取り、内容を確認する。

「……残ってくれるんだね」

コメが小さくうなずくと、校長はゆっくり顔を上げた。
その目には、どこか穏やかな温かさがあった。

「この仕事を長くやっているとね、生徒のことは大抵わかる。……でも、それだけじゃない。先生たちもね、私にとっては子供みたいなものなんだよ」

コメは驚いたように校長を見た。

「見ていれば、わかる。……君には、辛い決断をさせてしまったね」

コメは口を開きかけたが、言葉が出てこなかった。
それでも校長は続けた。

「渡部先生が戻ってくるって聞いた時、私は正直、どうしようかと思った。君の顔がすぐに浮かんだよ」

「……え?」

「彼がこのタイミングで、ここに戻ってきたのはね……。おそらく、彼自身も“わかっていて”戻ってきたんじゃないかと、私は思っているんだ」

「……どういう、意味ですか」

校長はふっと笑った。

「彼は、昔から色々なものが見える人だったからね」

コメは、言葉を失ったまま、その意味を探るように校長の顔を見つめた。

「それって……」

「ははは! 君も、見えてるんじゃないかな?」

そう言って校長は立ち上がり、窓の外を見た。

「……さ、寒くなる前に、生徒たちの元へ戻ってあげて。きっと、君を待っているよ」

コメは、深く頭を下げて、校長室を後にした。

胸の奥に、まだ温かく、まだ苦しい何かを抱えたまま。
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