野いちご源氏物語 二四 胡蝶(こちょう)
春がもう終わるころになった。
でも、春の御殿(ごてん)のお庭はまだまだ美しいの。
花はいつも以上に咲きほこって、鳥がよい声でさえずっている。
「あちらはまだ春が続いているのね」
と、他の御殿の女房(にょうぼう)たちは驚いていたわ。

お池に浮かぶ小島(こじま)は美しく(こけ)むしていて、その奥の木立(こだち)風情(ふぜい)がある。
春の御殿の女房たちはそれを自分のもののように見られるかというと、そうでもない。
御殿からは遠いし、広いお庭に下りたとしてもお池の向こうまでは行けないもの。
若い人たちは、
<もっと近くで見てみたい>
とうずうずしている。

源氏(げんじ)(きみ)は中国風の舟を造らせていらっしゃった。
女房たちの話を聞いて、急いで最後の仕上げをおさせになる。
完成した舟を初めてお池に浮かべる日は、お披露目(ひろめ)の会をなさったわ。
楽団(がくだん)をお呼びになって舟で演奏をおさせになる。
親王(しんのう)様や上級貴族たちがたくさんご出席なさった。
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