吉野主任は年下大型ワンコ系部下に頭を撫でられたい


「おや、お疲れですね」

 松永君の声に我に返る。むくみを隠せない顔をパチパチたたく。

「それも致し方ないーーか。小佐田部長、いやもう部長じゃないですが地方へ飛ばされ、吉野さんは経理部へ再配属」

 極めつけは、と視線を滑らす方向に新体制を記す用紙が貼られていた。

「シンデレラカンパニー創立以来の大抜擢、いかにも派手であの人らしい」
「……そうね」
「彼の大出世、嬉しくないんですか?」
「さぁ、どうだろう?」

 返事を曖昧にしておき、華々しい出世の裏にある自分の環境と近状を整理する。
 先日、小佐田前部長のセクハラ行為に対し問題提起したところ、想定以上の速さで解決が図られた。告発メールを出し一週間しないうち、関係各位へ通達されたのである。

 まず小佐田部長は営業部より地方の系列会社へ異動、言わずもがな左遷。次に私も営業部より経理部への異動が命じられ、役職は一応主任のまま。セクハラの加害者、被害者と言う関係上、前部長と顔を合わせる機会は無かった。報復は今現在、ない。

 絶大な後ろ盾を有していた小佐田前部長がこんなにも呆気なく失脚するなんて。
(やっぱりおかしい、あまりにもシナリオが出来すぎてる)
 業務をこなしつつ調べるものの、巧妙なやり口の尻尾がつかめない。
(尾が誰のものか、分かるのに)

「悩まされているんですか?」
「……顔にでてる?」
「それはもう。幸せなオーラで眩しいですーー西山部長が」
「はぁ」
「部長自ら主任に経費申請する時など、廊下をスキップしてますからね。この世の春という感じで羨ましい」
「茶化さないで」

 松永君が淹れてくれたコーヒーを飲む。どうやら恋人のコーヒーの方が美味しく感じるくらい、舌は慣らされているらしい。
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