吉野主任は年下大型ワンコ系部下に頭を撫でられたい
 いわば恩人を告発した私が戻ってきたのを警戒する同僚は多い。
 信頼をすぐに得るのは難しいが、ここで一から頑張っていこう。
 正直、営業部に残ったとて実績を築ける自信はなく、再配属は私にとってベター。退院した父との時間が調整しやすいのも有り難い。

「そう言えば書類を片付けていて気付いたのですが」
「ん?」
「西山部長はずっと吉野さんに仕事を頼んでいたんですね。担当印がいつも吉野さんでしたよ」
「……え、分からなかった」
「忙しいだろうに、わざわざ吉野さんに頼みたかったんでしょう。ほら噂をすれば」

 前方よりスキップしながらこちらへ向かう姿が見えた。行き交う社員は道を譲るが、役職柄というより不気味さからだろう。
 浮き足立って、まさにこの世の春だ。

(用がないなら経理部に来ないで、あれほど伝えているのに!)
 私はすぐさま通勤バッグを肩に掛ける。午後から休暇を取得してあり、父と会う。

「松永君、悪いけど今日は上がるね」
「デートですか?」
「茶化さないで! 野暮用よ」

 松永君は頷く。

「なんだかんだ言いつつ、気合を入れてオシャレをしているんですよね、吉野主任」

 その声は聞こえない。

 シンデレラカンパニー創立以来の最年少部長、役員全会一致で選ばれたお墨付きの西山和真。

「吉野主任〜!」

 そんな逸材が見えない尾をブンブン回し、駆け寄ってくる。

「お仕事、終わりました?」
「……お疲れ様です、西山部長。はい、終わりました」
「これから半休ですよね? 俺も半休です〜」
「でしょうね。父と三人で合う予定ですし」
「楽しみ過ぎて迎えに来ちゃいました!」

 やりとりは小声で行う。和真の人懐っこい行動は部長となっても変わらない。上役となっても敬語で話し掛けてきて、私は私で丁寧に応じる。
 営業部のサモエドが元上司に懐いている、を突き通す。無論、苦しい言い訳だ。
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