吉野主任は年下大型ワンコ系部下に頭を撫でられたい
 私は和真との関係を公表するつもりがない。
 部署が別となり、直属の上司と部下じゃないといえ、公にするメリットよりデメリットの方が大きいと判断した。
(松永君は勘付いてるし、和真は隠す気がないけど)
 
「オンとオフはしっかりしてって言ってるよね? それとスキップはやめて。この世の春って言われてる」
「そんな嫌味を言うの、松永でしょ? あのインテリ眼鏡め!」

 駐車場まで来たらいつもの調子になる。乗り慣れた助手席へ滑り込み、ベルガモットの香りを肺に入れた。

「彼、優秀なの」
「へぇ〜俺よりも? 美由紀のワンピースが新作だって気付ける? 似合ってる、可愛いよ」

 首を横に振っておく。

「そこは張り合う必要ないでしょう?」
「いや、張り合うだろ。優秀なら営業へ引き抜こうかな〜美由紀の側に置いておくとチョッカイ出しそうだし?」
「和真!」
「はは、冗談だよ〜美由紀に害をなさなければ何もしないって」

 エンジンが掛かる。
 ーーそう、和真なら冗談(それが)出来てしまう。従順でひたすら優しい彼は別の顔も持つ。
 この関係を無暗に明かさないのは、私だって彼を守りたいから。部長と朝峰さんから助けてくれたみたいに。いざという時こそ、和真の力になりたいんだ。

 シートベルト装着時に下がる黒髪へ触れ、いい子、いい子と唱えて撫でてみた。

「なんで撫でてくれるの?」
「和真、頑張ってるから」
「じゃあ、美由紀も頑張ってるから撫でてあげる」

 大きな手で撫でられると心地良く、目を閉じる。つむじにリップ音が落ち、あぁ、幸せだなぁと感じた。

「お父さんがよく言う言葉、覚えてる?」
「あぁ」

『このご時世ーー結婚が女性の幸せとは言わないけれど、頑張ったり泣きたくなった時に気持ちを分かち合う存在がいてもいいんじゃない?』

「わたしね、その存在が和真ならいいなって思うんだ」
「プロポーズなら起きて言ってくれないか? せめて」
「ねぇ、和真は?」
「あなたが頷くなら明日にでも結婚したいよ。でも、まだお預けなんだろう?」
「うん、まだ結婚は考えられないな」

 目を開け、半身を起こす。それから小指を差し出した。

「で、何を約束したらいい? 浮気なら死んでもしない」
「大事にします。この先何が起きようと一番の味方でいますーー誓おう」
「……誓い、か。死がわかつともってやつ?」
「はい?」

 やや間があり、和真はニカッと微笑んだ。

「せっかくだ、お義父さんの前で指切りしよう! お義父さん、神父だっけ?」
「サラリーマン。実家、教会じゃないからね」
「神前にする? ドレスでも白無垢でも似合いそう〜」
「……まず同棲してからでしょ?」
「じゃ、お義父さんに挨拶して不動産屋に行こう!」

 二人の未来に向け、アクセルが踏み込まれる。わたし達の明日はきっと明るい。


おわり
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