【マンガシナリオ】ノイズまみれの恋に溺れて ―感情ミュートな私の、恋の始まり。
第1話
■Scene 1-1:
4月初旬、午後 ―大学の敷地内、広場に建てられた野外ステージ。
〈野外に立てられたステージ上でダンスサークルがダンスを披露している。新歓イベントの様子。ステージに春の暖かな太陽と桜の花びらが綺麗に重なる。ポップな音楽が流れる中、新入生も在校生も集まって、皆で楽しく騒いでいる〉
雫月(――キラキラしてる。まるで別の世界みたい)
〈ステージの中央で圧倒的な存在感で踊る藍理。爽やかに飛び散る汗。キレのある動き、楽しそうな笑顔、仲間とのアイコンタクトも自然。観客席の雫月が、衝撃と共に、憧れを隠せない様子でその姿を見つめている〉
======================
■Scene 1-2:
(回想)数時間前 ― 校舎裏
〈二限目が終わったお昼の時間。校舎の至る所で行われている新歓のにぎわいを離れ、疲れた様子で校舎裏の縁石に座りこむ雫月。手には大量のビラを持っている〉
雫月(……大学って、こんなに人、いるんだ。声も音も、全部が大きくて……。いままでとは違う)
〈視線を落とし、握ったビラをくしゃっと折る〉
雫月(どうやって返事したらいいかわからなくて流してたら……いつの間にか、こんなに)
〈両手には20枚以上の勧誘ビラ。新入生としてたくさんの人に囲まれた情景を思い返す。今も元気な会話や笑い声が遠くから聞こえてくる。〉
雫月(……なんであんなに楽しそうに会話ができるんだろう。私は、話しかけられるたび、心のどこかが硬くなって──うまく笑えてたかな)
〈少し自嘲気味な笑みを浮かべるが、すぐに消える〉
〈地元の田舎暮らしから、横浜の大学に出てきて、違いに圧倒されている。それまでの静かな高校生活(親しい友達と3人で図書室で笑いあっていた情景)を思い出し、ため息〉
雫月(居心地よかったな。……二人とも、元気かな)
藍理「うわー大量じゃん。新入生?」
〈藍理が現れる。ダンスサークルらしい黒のセットアップに、シルバーアクセサリーと大量のピアス。声をかけられて慌てて顔をあげたらめちゃくちゃイケメンで驚く〉
雫月「えっ、あ……はい」
〈顔をこわばらせる雫月。全く気にしない様子で、手元からビラを何枚か引き抜いて、物色する〉
藍理「ふーん、今年のビラこんな感じなんだ。なんか気になるとこあった?」
雫月「え……っと」
雫月(ない、っていうのも失礼だよね……)
〈コミュニケーションに困り、言葉に詰まっている雫月に、藍理が優しく微笑む〉
藍理「分かる、新歓って疲れるよな。俺も静かなとこ探してた」
雫月(……え?)
〈ずっと、感情表現が苦手で分かりづらいと言われてきた。それで友達が少ないことも自覚している。なのに簡単に読み取られてしまった本心に驚いて、心底驚いた様子で顔を上げる〉
藍理「わかりやす」
〈藍理が、雫月の顔を覗き込むようにしてさっきよりも可笑しそうに笑う。雫月はまだ名前も知らない彼の笑顔に惹かれてしまう。頬を赤く染める。藍理はそのまま自然に隣に腰掛ける〉
藍理「ひとり暮らし?」
雫月「はい」
藍理「じゃあ、実家遠いんだ?」
雫月「えっと、千葉の田舎の方で」
藍理「あーね。じゃあ、大変だ。色々初めてでしょ」
〈落ちてくる桜の花びらで遊びながら、自然と話を振られ会話は続く。少しずつ自身でも気づかないうちに雫月の言葉数も増えていく〉
雫月「そ、ですね……。慣れないし、人見知りだし、なんか全部不安で」
雫月(あれ、なんで、私初対面の人にこんなこと……)
藍理「だよね。みんな最初はそんなもんだよ」
〈優しい目に驚く。前髪についた桜をすっと優しくとってくれる。一瞬の出来事で驚くまもなく。遅れて頬を赤く染める〉
〈遠くからおしゃれな男女二人組が手を振る(後ダンサーメンバー)〉
瑛人「あー、見つけた。すぐさぼる!」
沙耶「新歓は死ぬ気で働くって言ってたじゃん!」
藍理「やべー見つかったかあ」
〈小声で呟いてから、立ち上がる〉
藍理「サボってねーよ、新歓中!」
〈親しそうに二人と会話をしながら、こっそり雫月を見下ろして人差し指を立てて内緒ポーズ。その動作にも頬が熱くなる〉
藍理「じゃあね、もし気が向いたらそれおいで」
〈指差した先には、一番上に並び替えられたダンスサークルのビラ。16時から新歓ステージと書かれている〉
〈驚いている雫月に、軽く手を挙げて去っていく。雫月はその背中を呆然と見送る〉
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■Scene 1-3:
再び新歓ステージに戻る。
〈藍理が舞台中央に出て、激しいソロパートを披露。目にかかる髪。歓声が上がる。雫月、固唾を呑んで見つめる〉
雫月(さっきの人だ……)
〈「アイリーー!」と呼ぶたくさんの歓声〉
雫月(アイリ、っていうんだ)
〈一瞬目があったようにも感じる描写。挑戦的でかっこいい瞳に、雫月は、驚きとときめきが入り混じった表情〉
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■Scene 2-1:
同日夜、 ―新歓ステージ後、ご飯会(居酒屋)
〈大学近くの居酒屋の入り口。サークルメンバーと新入生たちが続々とお店に入っていく中、雫月は最後尾あたりでそわそわと落ち着かない様子で立っている〉
雫月(言われるがまま来ちゃったけど、やっぱり場違いのような……)
〈ダンスサークルらしいさまざまな髪色髪型の学生たちや、おしゃれな人が多い描写。みんな社交性が高そうでそこら中で初めましての挨拶が行われている。雫月は萎縮しながらその様子をきょろきょろと眺める。〉
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■Scene 2-2:
(回想)新歓ステージ終了直後 ―ステージ前
〈ステージから降りて新歓を始めるメンバーたちと新入生が会話を弾ませる。ぽつんと座っていると藍理に声をかけられる〉
藍理「来てんじゃん」
雫月(……さっきのステージからすぐだと、輝きで直視できない……!)
〈藍理の笑顔が太陽と重なって眩しそうに目を細める雫月。ビラで顔を隠そうとする雫月とそれを避けようとする藍理が顔を左右に動かしながら戦う図。耐えられず藍理が吹き出し、ビラを抜き取られる〉
藍理「何してんだよ(笑)」
〈くしゃっとした笑顔に、赤面して視線を逸らす。照れているのを見て意地悪く笑う藍理〉
藍理「このあと行けるやつでご飯行くから行こうぜ?自分で作るの大変だろ」
雫月「え、でも……」
藍理「タダだし。なあ!瑛人!この子も行く!」
〈答えを聞く前に遠くにいた部員(瑛人は副代表)に大声で伝える藍理。戸惑うもののなにもいえない雫月。藍理の無邪気な様子に翻弄されている〉
雫月(えーーーーー)
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■Scene 2-3:
再び新歓ご飯会の居酒屋の入口に戻る
雫月(やっぱり、謝って、帰ろうかな……)
〈後ろを向こうとしたところで、肩を組まれる。驚いて顔をあげると藍理がいる。至近距離で見下す視線に目を奪われる〉
藍理「何してんだよ、いくぞ」
雫月「え?」
〈列車ごっこのように、クルっと向きを変えられて肩に手を置いてお店の中へと連れて行かれる。注目を浴びて慌てる雫月。それを見て藍理は可笑しそうに笑う〉
雫月「ちょっと、あの……!」
〈藍理が、ぱっと周りを見渡す描写。ここだけ真剣な瞳で、藍理の気遣い力を表現。すぐに1箇所の席に狙いを定めてつれていく〉
藍理「おっす、ここ2人空いてるな?ここ入れて〜!」
〈藍理が雫月を新入生の二人の女の子(花梨と千夏)に紹介する。おとなしめな二人。雫月、戸惑いながらも座る〉
藍理「一旦自己紹介でもする?俺、芹沢藍理です。3年生です。ダンスサークルに所属してます!経営学部です!下宿生です!」
花梨「詩島花梨です。文学部で、私も下宿生です」
千夏「凜堂千夏です。私も文学部で、下宿生です」
雫月「舞原雫月です。私も文学部で、下宿生です」
藍理「三つ子か!同じ情報すぎていま頭バグったわ!」
〈藍理が大袈裟な動作でツッコミを入れて、緊張していた3人に笑顔が見える〉
〈地元で心を許していた数少ない友達と同じ空気感を感じる子たちにだんだん安心してくる。その様子を見て、藍理が安心したような優しい微笑み〉
〈注文が届き、みんなで乾杯をする〉
瑛人「じゃあ、代表乾杯の音頭とって」
〈茶髪にメッシュを入れた爽やかな笑顔が輝く男子がこちらに目を向ける。隣に座っていた藍理がゆっくりと立ち上がって、雫月は驚く〉
藍理「えー、そういうの苦手なんだけどなあ」
瑛人「うるせえ、さっさとやれ」
藍理「ちょ、瑛人ひどくね?」
〈親しそうなやり取りを繰り広げる先輩たちに、場の空気も和らぐ〉
藍理「えー、じゃあ今日は来てくれてありがとうございます!せっかくの機会なんで、いろんな人と話して、楽しく、それぞれいい会にしてください!サークルへの勧誘は二の次でいいです!」
先輩「おいおいおい、その通りだけど!代表がそんなこと言うな!」
〈笑いに包まれる中、乾杯して、周りの人とジョッキを交わす。乾杯で動き回る先輩たち。その波には上手くは乗れず近くに来てくださった先輩方に控えめにグラスを添わせていた。ひと回りして腰を下ろした藍理と視線があう。雫月の表情を見て、藍理が吹き出す〉
藍理「不安そう(笑)」
雫月「え……?」
藍理「大丈夫大丈夫、こんなん適当だから、ほい!」
〈グラスを目の前に掲げられて慌てて近づけると、コツンと優しくぶつけられた。目の前にいた花梨と千夏ともそのまま控えめにグラスをぶつけ合い、穏やかな笑いが起こる〉
〈食事が進み、話が盛り上がる中、藍理はこそっと、雫月のスマホの裏に入ったステッカーを指差して、視線を花梨に向ける。雫月が視線をそわせるとその視線の先にたまたまオンになった花梨のスマホのロック画面が見える。それが、同じゆるキャラ(るんるんなバレリーナ)を映していて、思わず声をかける〉
雫月「あ、あの、るんるーな好き、なの……?」
花梨「えっ、あっ、そうなの、え雫月ちゃんも?」
雫月「そう、そうなの昔から好きで……」
千夏「……るんるーな、ってなに?」
雫月・花梨「知らないの?」
〈それまで群を抜いて無口だった雫月が話し出したことで二人も嬉しそうに顔を見合わせ、話が盛り上がるようになる。〉
〈気付かないうちに、藍理は別のテーブルに移動している。代わる代わる席に来てくれたいろんな先輩とも挨拶を交わす雫月。遠くからちらりとその様子を見て安心したように微笑む藍理の様子。〉
雫月(別世界だと思ったけど、ちゃんと来てよかったーー)
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■Scene 2-4:
同日、夜 ―居酒屋から出て店の前き留まる集団
〈お店の外に出ると、他の後輩や先輩たちと話している藍理が目に入る。ガードレールにもたれて話す藍理の横顔が一際目立って見える〉
花梨「挨拶して帰ろっか」
千夏「そうだね。あの、私たち帰ります、ごちそうさまでした!」
花梨と雫月も声を合わせて「ごちそうさまでした」
〈遠目に藍理と視線が合い、微笑まれる。ひらひらと手を振る姿に、ぺこりとお辞儀をした〉
雫月(誘ってもらってありがとうございましたとか、伝えたかったけど……。でも、いいか。何人も誘った中のひとりだろうし……)
〈花梨と千夏と一緒に帰りながら藍理や推しの先輩の話で盛り上がる。藍理はやっぱり人気だということも判明〉
千夏「なんか、別世界だって思ってたけど、来てよかったなぁ」
花梨「ね。ていうか、先輩たち、美男美女ばっかりだったよね」
千夏「わかる〜!ステージで藍理さんのダンス惹かれてたからなんか近くの席で勝手にどきどきしちゃった」
花梨「あれはずるいよね、個人的には瑛人さんもかっこよかった」
〈二人の会話に耳を傾けながら、雫月も心の中で同意する〉
雫月 (私も、藍理さんのおかげで、今日が変わった気がする。大学生って、大人だし、すっごくかっこいいんだな〜)
〈今日の出会いからの回想を少し挟む〉
花梨「また今度、サークル一緒に見に行こうよ」
千夏「うん、今度はちゃんと見るぞ〜って感じで!」
雫月「……うん、行ってみたい」
雫月(私きっと今日、ワクワクしてた。ほんの少しだけ、あの人みたいに、なりたいと思ったんだ)
〈桜の花びらが、風に乗って舞い落ちる。雫月は、静かに前を向いて歩き出した〉
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■Scene 3-1:
数日後、お昼休み ―大学の講義室
〈雫月と花梨と千夏が、講義室の後ろの方の席で3人で時間割を組んでいる。真剣な表情でスマホを見つめる〉
千夏「これで問題ないよね?」
〈緊張する面持ちで頷いて、スマホで申請ボタンを押す。無事に受け付けられた表示を見て、3人で伸びをする〉
花梨・千夏・雫月「終わったあ〜〜」
花梨「あ〜〜めちゃめちゃ頭使った気がする!」
千夏「そうだ、このあとふたり予定空いてる?」
〈ダンスサークルの新歓メッセージにきていた、体験会の通知を千夏が二人に見せる〉
千夏「これ、行かない?」
〈花梨と雫月が顔を見合わせる〉
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■Scene 3-2:
同日16時頃 ―第二校舎棟の地下スタジオ(鏡張り、防音仕様)
〈円になる部員の一人として雫月が緊張気味に立っている。両隣には、花梨と千夏がいて、ふたりとも緊張している〉
雫月(なんとなくついてきちゃったけど、体験なんて大丈夫かな。やっぱり私は見学にしてもらおうかな……)
〈数コマで、過去を匂わすシーンを入れる。雫月の脳裏によぎるような感じで、姉の舞台での活躍シーンと、自分が本番で大きなミスをして涙するシーン、詳細にはいれず、あくまで何かがあったんだなくらい〉
〈その間に2年生が仕切っていた準備運動が終わり、藍理が話し始める〉
藍理「じゃ、いつも通りジャンルごとに分かれていいよ。今日は体験の子もいるから、希望聞いたら適当に連れてくしよろしく」
〈メンバーは返事をしてばらけていき、新入生が10人ほど残る〉
藍理「さてと、今日は来てくれてありがとう」
〈爽やかな笑顔に少し黄色い歓声が漏れる。藍理はにこやかにそれを制し、説明を続ける。雫月もまじまじと顔を見つめてしまう。表を持つプチ藍理で簡単にジャンル説明〉
藍理「うちのダンスサークルはそれぞれ好きなジャンルで自由にやってるんだけど。一応いま活動的にやってるのはHIPHOP、LOCK、POP、HOUSE、BREAK、GIRLS、JAZZかな」
藍理「今日は、お試しだからどこ行ってもいいんだけど、やりたいジャンルとか決まってる子いる?」
〈5人ほどが、LOCKとHIPHOPを主張する〉
藍理「おー!いいね、かっこいいよね〜」
〈雫月たち3人とギャル2人が残る、ギャル2人は藍理のファンのような挙動〉
ギャル「あの、藍理さんはどのジャンルなんですか?」
藍理「俺?俺は、色々やってるけど、最近はHIPHOPとHOUSEかな〜」
ギャル「じゃあ、私たちHIPHOPにします!」
〈藍理への好意を隠さない様子に、雫月は驚く。それに対して、にこにこと対応する藍理にもモテる男っぽい余裕を感じて、距離を感じる〉
雫月(人気すぎる……。すごいなぁ、やっぱ別世界の人だ)
藍理「雫月たちは?どうする?」
〈ステージの日以来会うのは初めてだったのに、突然の名指しに驚く雫月。藍理は気にしていない様子で微笑む〉
千夏「私たちは、特に、決められてなくて……」
藍理「そう?んー……じゃあ、GIRLS行ってみる?女の子いっぱいいるし、合うんじゃないかな」
花梨「そ、それは、やってみたいかも……」
藍理「いーじゃん、決まり。もちろん体験だから他にやりたいのあれば途中で変わってもいいし。それはまた、相談して?」
〈優しく楽しく、雑談ベースで進めてくれる藍理に、雫月はずっと視線を奪われていた〉
雫月(人気がある理由もわかる……)
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■Scene 3-3:
スタジオの一角。GIRLSが練習している場所。
〈美人な女性たちが集まるので、雫月は緊張する。そこに、ショートボブでインナーに金を入れた八重歯が可愛らしい女性が気付いて接近〉
莉子「えー!嬉しい3人も来てくれたの〜〜!私、成海莉子です!2年生です!」
〈他にも3人くらい先輩がいて、自己紹介を軽くかわして練習に入る。すごく優しいけれど慣れない動きに苦戦する。花梨と千夏はハマったようで、二人が休憩になっても熱心に練習する。その横では先輩方が音楽に乗せて踊る中、雫月は端に座ってその様子を眺める〉
雫月(あー……やっぱり苦手かも、思うように動けないし……。あんな風に堂々と自分の踊りを見せるなんて私には、無理)
〈遠くからその様子を見ていた藍理が、沙耶(黒髪をポニーテールでまとめた美人お姉さん)に囁くシーン。微笑みながら沙耶が近づいてくる〉
沙耶「雫月ちゃん、一緒に踊らない?あ、私は副代表の香月沙耶です!」
雫月(……体験、来ちゃったし。断れないよね)
〈雫月は困りながら頷く。沙耶に手を引かれ、少しずつ体を動かし始める。いろんなジャンルの基礎で遊ぶ感じ。その中のいちジャンルで、沙耶が目を見開いて音楽を止める。〉
沙耶「え?めっちゃしなやか〜!こういうの得意?」
雫月「いや……これは……」
雫月(ミュージカル教室の頃の動きににてるから……)
〈小学生の頃、姉と一緒に通っていたミュージカル教室の描写〉
沙耶「いいね、JAZZ向いてるじゃん。実は私、専門JAZZなんだ。これ、踊ろうよ。振り入れしよ」
〈沙耶が手取り足取り振りを入れてくれる。カウントしながら何回か繰り返し、ゆっくり通せるようになる〉
沙耶「え?すごいじゃん!最後、一緒に通してみない?」
雫月「え、いや、そんなレベルじゃ……」
沙耶「いいのいいの、私がフォローするから!」
〈音楽を流す。控えめに、でも沙耶と目が合い少しずつ大胆に〉
雫月(……この感覚知ってる。人と踊るのって楽しいんだった。忘れちゃってたな)
〈姉と同じ舞台で目を合わせて踊っていたことを少し思い出す〉
〈曲に熱中するにつれて周りの視線を集めていく。藍理も気付き、視線を奪われる。初めてみる幸せそうな笑顔に、微笑む〉
〈踊り切ったところで拍手が起こる。二人きりでやっている気分だったのが気づいたら視線を集めていた。雫月は真っ赤になって縮こまり、沙耶の影に隠れる〉
藍理「なんで隠れるんだよ、かっこよかったぞ!」
〈サークル中が明るい雰囲気になり、沙耶にも優しく微笑まれる。雫月も最後には、赤くなりながらも控えめに笑う〉
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■Scene 3-4:
練習終了後、夕方 ―スタジオの隅
〈練習が終わり、隅で荷物をまとめながら千夏花梨と話す様子。〉
千夏「雫月、ダンスやってたの!?めっちゃ綺麗だった!」
雫月「いや……やってたってほどじゃないんだけどね……。でもふたりこそGIRLS凄かったよ」
花梨「楽しかったよね、だから、私たち入ろうかなって思ってて。よかったら雫月も一緒に入らない?」
千夏「入ろうよ!」
〈一瞬戸惑うけれど、さっき思い出した楽しさを振り返り拳を握る〉
雫月「うん、私も入りたい!」
〈3人で笑っているところに沙耶と莉子、Gilrsの女性の先輩が現れる〉
沙耶「いいこと聞いちゃった〜〜〜!」
莉子「きゃー!GIRLS獲得ってことですか!?」
沙耶「JAZZも負けてないよ〜!」
〈一気に賑やかになり歓迎ムードに嬉しくなる〉
雫月(もう一度、頑張ってみようかな。このサークルでなら)
〈雫月が藍理に視線を向け、藍理がすぐにそれに気付き、ヒラヒラと手を振る様子〉
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■Scene 4:
同日夜22時頃 ―練習後の帰り道。
〈そのまま女性陣でご飯へ行き、解散したあと、通りがかったコンビニで、藍理と莉子が出てくる。雫月はひとり〉
莉子「ね?超嬉しくない?」
藍理「よかったじゃん、頑張ってるもんな」
〈電子たばこを咥え、ガードレールにもたれかかる藍理。普段と違う雰囲気に足を止めてつい見てしまう。そのままゆるく莉子の頭に触れる〉
〈莉子は嬉しそうに笑い、戯れ合うようにして藍理の頬に唇を触れる。藍理は避ける様子もなく軽く笑って電子タバコを吸う〉
莉子「ふふ、藍理さん超かっこいい〜!」
藍理「はいはい、知ってる〜」
〈目撃してしまった雫月は、目を見開き、立ち尽くす〉
〈純粋に、かっこよくて優しくて王子様みたいな人だと、大学生ってすごいと夢見ていた藍理の像が崩れていく描写〉
雫月(――この人、絶対、好きになっちゃいけない人だ)
〈背を向けて立ち去る。表情に痛みと決意が混じる〉
雫月(大学生、怖ーー)
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(第1話終了)
4月初旬、午後 ―大学の敷地内、広場に建てられた野外ステージ。
〈野外に立てられたステージ上でダンスサークルがダンスを披露している。新歓イベントの様子。ステージに春の暖かな太陽と桜の花びらが綺麗に重なる。ポップな音楽が流れる中、新入生も在校生も集まって、皆で楽しく騒いでいる〉
雫月(――キラキラしてる。まるで別の世界みたい)
〈ステージの中央で圧倒的な存在感で踊る藍理。爽やかに飛び散る汗。キレのある動き、楽しそうな笑顔、仲間とのアイコンタクトも自然。観客席の雫月が、衝撃と共に、憧れを隠せない様子でその姿を見つめている〉
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■Scene 1-2:
(回想)数時間前 ― 校舎裏
〈二限目が終わったお昼の時間。校舎の至る所で行われている新歓のにぎわいを離れ、疲れた様子で校舎裏の縁石に座りこむ雫月。手には大量のビラを持っている〉
雫月(……大学って、こんなに人、いるんだ。声も音も、全部が大きくて……。いままでとは違う)
〈視線を落とし、握ったビラをくしゃっと折る〉
雫月(どうやって返事したらいいかわからなくて流してたら……いつの間にか、こんなに)
〈両手には20枚以上の勧誘ビラ。新入生としてたくさんの人に囲まれた情景を思い返す。今も元気な会話や笑い声が遠くから聞こえてくる。〉
雫月(……なんであんなに楽しそうに会話ができるんだろう。私は、話しかけられるたび、心のどこかが硬くなって──うまく笑えてたかな)
〈少し自嘲気味な笑みを浮かべるが、すぐに消える〉
〈地元の田舎暮らしから、横浜の大学に出てきて、違いに圧倒されている。それまでの静かな高校生活(親しい友達と3人で図書室で笑いあっていた情景)を思い出し、ため息〉
雫月(居心地よかったな。……二人とも、元気かな)
藍理「うわー大量じゃん。新入生?」
〈藍理が現れる。ダンスサークルらしい黒のセットアップに、シルバーアクセサリーと大量のピアス。声をかけられて慌てて顔をあげたらめちゃくちゃイケメンで驚く〉
雫月「えっ、あ……はい」
〈顔をこわばらせる雫月。全く気にしない様子で、手元からビラを何枚か引き抜いて、物色する〉
藍理「ふーん、今年のビラこんな感じなんだ。なんか気になるとこあった?」
雫月「え……っと」
雫月(ない、っていうのも失礼だよね……)
〈コミュニケーションに困り、言葉に詰まっている雫月に、藍理が優しく微笑む〉
藍理「分かる、新歓って疲れるよな。俺も静かなとこ探してた」
雫月(……え?)
〈ずっと、感情表現が苦手で分かりづらいと言われてきた。それで友達が少ないことも自覚している。なのに簡単に読み取られてしまった本心に驚いて、心底驚いた様子で顔を上げる〉
藍理「わかりやす」
〈藍理が、雫月の顔を覗き込むようにしてさっきよりも可笑しそうに笑う。雫月はまだ名前も知らない彼の笑顔に惹かれてしまう。頬を赤く染める。藍理はそのまま自然に隣に腰掛ける〉
藍理「ひとり暮らし?」
雫月「はい」
藍理「じゃあ、実家遠いんだ?」
雫月「えっと、千葉の田舎の方で」
藍理「あーね。じゃあ、大変だ。色々初めてでしょ」
〈落ちてくる桜の花びらで遊びながら、自然と話を振られ会話は続く。少しずつ自身でも気づかないうちに雫月の言葉数も増えていく〉
雫月「そ、ですね……。慣れないし、人見知りだし、なんか全部不安で」
雫月(あれ、なんで、私初対面の人にこんなこと……)
藍理「だよね。みんな最初はそんなもんだよ」
〈優しい目に驚く。前髪についた桜をすっと優しくとってくれる。一瞬の出来事で驚くまもなく。遅れて頬を赤く染める〉
〈遠くからおしゃれな男女二人組が手を振る(後ダンサーメンバー)〉
瑛人「あー、見つけた。すぐさぼる!」
沙耶「新歓は死ぬ気で働くって言ってたじゃん!」
藍理「やべー見つかったかあ」
〈小声で呟いてから、立ち上がる〉
藍理「サボってねーよ、新歓中!」
〈親しそうに二人と会話をしながら、こっそり雫月を見下ろして人差し指を立てて内緒ポーズ。その動作にも頬が熱くなる〉
藍理「じゃあね、もし気が向いたらそれおいで」
〈指差した先には、一番上に並び替えられたダンスサークルのビラ。16時から新歓ステージと書かれている〉
〈驚いている雫月に、軽く手を挙げて去っていく。雫月はその背中を呆然と見送る〉
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■Scene 1-3:
再び新歓ステージに戻る。
〈藍理が舞台中央に出て、激しいソロパートを披露。目にかかる髪。歓声が上がる。雫月、固唾を呑んで見つめる〉
雫月(さっきの人だ……)
〈「アイリーー!」と呼ぶたくさんの歓声〉
雫月(アイリ、っていうんだ)
〈一瞬目があったようにも感じる描写。挑戦的でかっこいい瞳に、雫月は、驚きとときめきが入り混じった表情〉
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■Scene 2-1:
同日夜、 ―新歓ステージ後、ご飯会(居酒屋)
〈大学近くの居酒屋の入り口。サークルメンバーと新入生たちが続々とお店に入っていく中、雫月は最後尾あたりでそわそわと落ち着かない様子で立っている〉
雫月(言われるがまま来ちゃったけど、やっぱり場違いのような……)
〈ダンスサークルらしいさまざまな髪色髪型の学生たちや、おしゃれな人が多い描写。みんな社交性が高そうでそこら中で初めましての挨拶が行われている。雫月は萎縮しながらその様子をきょろきょろと眺める。〉
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■Scene 2-2:
(回想)新歓ステージ終了直後 ―ステージ前
〈ステージから降りて新歓を始めるメンバーたちと新入生が会話を弾ませる。ぽつんと座っていると藍理に声をかけられる〉
藍理「来てんじゃん」
雫月(……さっきのステージからすぐだと、輝きで直視できない……!)
〈藍理の笑顔が太陽と重なって眩しそうに目を細める雫月。ビラで顔を隠そうとする雫月とそれを避けようとする藍理が顔を左右に動かしながら戦う図。耐えられず藍理が吹き出し、ビラを抜き取られる〉
藍理「何してんだよ(笑)」
〈くしゃっとした笑顔に、赤面して視線を逸らす。照れているのを見て意地悪く笑う藍理〉
藍理「このあと行けるやつでご飯行くから行こうぜ?自分で作るの大変だろ」
雫月「え、でも……」
藍理「タダだし。なあ!瑛人!この子も行く!」
〈答えを聞く前に遠くにいた部員(瑛人は副代表)に大声で伝える藍理。戸惑うもののなにもいえない雫月。藍理の無邪気な様子に翻弄されている〉
雫月(えーーーーー)
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■Scene 2-3:
再び新歓ご飯会の居酒屋の入口に戻る
雫月(やっぱり、謝って、帰ろうかな……)
〈後ろを向こうとしたところで、肩を組まれる。驚いて顔をあげると藍理がいる。至近距離で見下す視線に目を奪われる〉
藍理「何してんだよ、いくぞ」
雫月「え?」
〈列車ごっこのように、クルっと向きを変えられて肩に手を置いてお店の中へと連れて行かれる。注目を浴びて慌てる雫月。それを見て藍理は可笑しそうに笑う〉
雫月「ちょっと、あの……!」
〈藍理が、ぱっと周りを見渡す描写。ここだけ真剣な瞳で、藍理の気遣い力を表現。すぐに1箇所の席に狙いを定めてつれていく〉
藍理「おっす、ここ2人空いてるな?ここ入れて〜!」
〈藍理が雫月を新入生の二人の女の子(花梨と千夏)に紹介する。おとなしめな二人。雫月、戸惑いながらも座る〉
藍理「一旦自己紹介でもする?俺、芹沢藍理です。3年生です。ダンスサークルに所属してます!経営学部です!下宿生です!」
花梨「詩島花梨です。文学部で、私も下宿生です」
千夏「凜堂千夏です。私も文学部で、下宿生です」
雫月「舞原雫月です。私も文学部で、下宿生です」
藍理「三つ子か!同じ情報すぎていま頭バグったわ!」
〈藍理が大袈裟な動作でツッコミを入れて、緊張していた3人に笑顔が見える〉
〈地元で心を許していた数少ない友達と同じ空気感を感じる子たちにだんだん安心してくる。その様子を見て、藍理が安心したような優しい微笑み〉
〈注文が届き、みんなで乾杯をする〉
瑛人「じゃあ、代表乾杯の音頭とって」
〈茶髪にメッシュを入れた爽やかな笑顔が輝く男子がこちらに目を向ける。隣に座っていた藍理がゆっくりと立ち上がって、雫月は驚く〉
藍理「えー、そういうの苦手なんだけどなあ」
瑛人「うるせえ、さっさとやれ」
藍理「ちょ、瑛人ひどくね?」
〈親しそうなやり取りを繰り広げる先輩たちに、場の空気も和らぐ〉
藍理「えー、じゃあ今日は来てくれてありがとうございます!せっかくの機会なんで、いろんな人と話して、楽しく、それぞれいい会にしてください!サークルへの勧誘は二の次でいいです!」
先輩「おいおいおい、その通りだけど!代表がそんなこと言うな!」
〈笑いに包まれる中、乾杯して、周りの人とジョッキを交わす。乾杯で動き回る先輩たち。その波には上手くは乗れず近くに来てくださった先輩方に控えめにグラスを添わせていた。ひと回りして腰を下ろした藍理と視線があう。雫月の表情を見て、藍理が吹き出す〉
藍理「不安そう(笑)」
雫月「え……?」
藍理「大丈夫大丈夫、こんなん適当だから、ほい!」
〈グラスを目の前に掲げられて慌てて近づけると、コツンと優しくぶつけられた。目の前にいた花梨と千夏ともそのまま控えめにグラスをぶつけ合い、穏やかな笑いが起こる〉
〈食事が進み、話が盛り上がる中、藍理はこそっと、雫月のスマホの裏に入ったステッカーを指差して、視線を花梨に向ける。雫月が視線をそわせるとその視線の先にたまたまオンになった花梨のスマホのロック画面が見える。それが、同じゆるキャラ(るんるんなバレリーナ)を映していて、思わず声をかける〉
雫月「あ、あの、るんるーな好き、なの……?」
花梨「えっ、あっ、そうなの、え雫月ちゃんも?」
雫月「そう、そうなの昔から好きで……」
千夏「……るんるーな、ってなに?」
雫月・花梨「知らないの?」
〈それまで群を抜いて無口だった雫月が話し出したことで二人も嬉しそうに顔を見合わせ、話が盛り上がるようになる。〉
〈気付かないうちに、藍理は別のテーブルに移動している。代わる代わる席に来てくれたいろんな先輩とも挨拶を交わす雫月。遠くからちらりとその様子を見て安心したように微笑む藍理の様子。〉
雫月(別世界だと思ったけど、ちゃんと来てよかったーー)
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■Scene 2-4:
同日、夜 ―居酒屋から出て店の前き留まる集団
〈お店の外に出ると、他の後輩や先輩たちと話している藍理が目に入る。ガードレールにもたれて話す藍理の横顔が一際目立って見える〉
花梨「挨拶して帰ろっか」
千夏「そうだね。あの、私たち帰ります、ごちそうさまでした!」
花梨と雫月も声を合わせて「ごちそうさまでした」
〈遠目に藍理と視線が合い、微笑まれる。ひらひらと手を振る姿に、ぺこりとお辞儀をした〉
雫月(誘ってもらってありがとうございましたとか、伝えたかったけど……。でも、いいか。何人も誘った中のひとりだろうし……)
〈花梨と千夏と一緒に帰りながら藍理や推しの先輩の話で盛り上がる。藍理はやっぱり人気だということも判明〉
千夏「なんか、別世界だって思ってたけど、来てよかったなぁ」
花梨「ね。ていうか、先輩たち、美男美女ばっかりだったよね」
千夏「わかる〜!ステージで藍理さんのダンス惹かれてたからなんか近くの席で勝手にどきどきしちゃった」
花梨「あれはずるいよね、個人的には瑛人さんもかっこよかった」
〈二人の会話に耳を傾けながら、雫月も心の中で同意する〉
雫月 (私も、藍理さんのおかげで、今日が変わった気がする。大学生って、大人だし、すっごくかっこいいんだな〜)
〈今日の出会いからの回想を少し挟む〉
花梨「また今度、サークル一緒に見に行こうよ」
千夏「うん、今度はちゃんと見るぞ〜って感じで!」
雫月「……うん、行ってみたい」
雫月(私きっと今日、ワクワクしてた。ほんの少しだけ、あの人みたいに、なりたいと思ったんだ)
〈桜の花びらが、風に乗って舞い落ちる。雫月は、静かに前を向いて歩き出した〉
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■Scene 3-1:
数日後、お昼休み ―大学の講義室
〈雫月と花梨と千夏が、講義室の後ろの方の席で3人で時間割を組んでいる。真剣な表情でスマホを見つめる〉
千夏「これで問題ないよね?」
〈緊張する面持ちで頷いて、スマホで申請ボタンを押す。無事に受け付けられた表示を見て、3人で伸びをする〉
花梨・千夏・雫月「終わったあ〜〜」
花梨「あ〜〜めちゃめちゃ頭使った気がする!」
千夏「そうだ、このあとふたり予定空いてる?」
〈ダンスサークルの新歓メッセージにきていた、体験会の通知を千夏が二人に見せる〉
千夏「これ、行かない?」
〈花梨と雫月が顔を見合わせる〉
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■Scene 3-2:
同日16時頃 ―第二校舎棟の地下スタジオ(鏡張り、防音仕様)
〈円になる部員の一人として雫月が緊張気味に立っている。両隣には、花梨と千夏がいて、ふたりとも緊張している〉
雫月(なんとなくついてきちゃったけど、体験なんて大丈夫かな。やっぱり私は見学にしてもらおうかな……)
〈数コマで、過去を匂わすシーンを入れる。雫月の脳裏によぎるような感じで、姉の舞台での活躍シーンと、自分が本番で大きなミスをして涙するシーン、詳細にはいれず、あくまで何かがあったんだなくらい〉
〈その間に2年生が仕切っていた準備運動が終わり、藍理が話し始める〉
藍理「じゃ、いつも通りジャンルごとに分かれていいよ。今日は体験の子もいるから、希望聞いたら適当に連れてくしよろしく」
〈メンバーは返事をしてばらけていき、新入生が10人ほど残る〉
藍理「さてと、今日は来てくれてありがとう」
〈爽やかな笑顔に少し黄色い歓声が漏れる。藍理はにこやかにそれを制し、説明を続ける。雫月もまじまじと顔を見つめてしまう。表を持つプチ藍理で簡単にジャンル説明〉
藍理「うちのダンスサークルはそれぞれ好きなジャンルで自由にやってるんだけど。一応いま活動的にやってるのはHIPHOP、LOCK、POP、HOUSE、BREAK、GIRLS、JAZZかな」
藍理「今日は、お試しだからどこ行ってもいいんだけど、やりたいジャンルとか決まってる子いる?」
〈5人ほどが、LOCKとHIPHOPを主張する〉
藍理「おー!いいね、かっこいいよね〜」
〈雫月たち3人とギャル2人が残る、ギャル2人は藍理のファンのような挙動〉
ギャル「あの、藍理さんはどのジャンルなんですか?」
藍理「俺?俺は、色々やってるけど、最近はHIPHOPとHOUSEかな〜」
ギャル「じゃあ、私たちHIPHOPにします!」
〈藍理への好意を隠さない様子に、雫月は驚く。それに対して、にこにこと対応する藍理にもモテる男っぽい余裕を感じて、距離を感じる〉
雫月(人気すぎる……。すごいなぁ、やっぱ別世界の人だ)
藍理「雫月たちは?どうする?」
〈ステージの日以来会うのは初めてだったのに、突然の名指しに驚く雫月。藍理は気にしていない様子で微笑む〉
千夏「私たちは、特に、決められてなくて……」
藍理「そう?んー……じゃあ、GIRLS行ってみる?女の子いっぱいいるし、合うんじゃないかな」
花梨「そ、それは、やってみたいかも……」
藍理「いーじゃん、決まり。もちろん体験だから他にやりたいのあれば途中で変わってもいいし。それはまた、相談して?」
〈優しく楽しく、雑談ベースで進めてくれる藍理に、雫月はずっと視線を奪われていた〉
雫月(人気がある理由もわかる……)
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■Scene 3-3:
スタジオの一角。GIRLSが練習している場所。
〈美人な女性たちが集まるので、雫月は緊張する。そこに、ショートボブでインナーに金を入れた八重歯が可愛らしい女性が気付いて接近〉
莉子「えー!嬉しい3人も来てくれたの〜〜!私、成海莉子です!2年生です!」
〈他にも3人くらい先輩がいて、自己紹介を軽くかわして練習に入る。すごく優しいけれど慣れない動きに苦戦する。花梨と千夏はハマったようで、二人が休憩になっても熱心に練習する。その横では先輩方が音楽に乗せて踊る中、雫月は端に座ってその様子を眺める〉
雫月(あー……やっぱり苦手かも、思うように動けないし……。あんな風に堂々と自分の踊りを見せるなんて私には、無理)
〈遠くからその様子を見ていた藍理が、沙耶(黒髪をポニーテールでまとめた美人お姉さん)に囁くシーン。微笑みながら沙耶が近づいてくる〉
沙耶「雫月ちゃん、一緒に踊らない?あ、私は副代表の香月沙耶です!」
雫月(……体験、来ちゃったし。断れないよね)
〈雫月は困りながら頷く。沙耶に手を引かれ、少しずつ体を動かし始める。いろんなジャンルの基礎で遊ぶ感じ。その中のいちジャンルで、沙耶が目を見開いて音楽を止める。〉
沙耶「え?めっちゃしなやか〜!こういうの得意?」
雫月「いや……これは……」
雫月(ミュージカル教室の頃の動きににてるから……)
〈小学生の頃、姉と一緒に通っていたミュージカル教室の描写〉
沙耶「いいね、JAZZ向いてるじゃん。実は私、専門JAZZなんだ。これ、踊ろうよ。振り入れしよ」
〈沙耶が手取り足取り振りを入れてくれる。カウントしながら何回か繰り返し、ゆっくり通せるようになる〉
沙耶「え?すごいじゃん!最後、一緒に通してみない?」
雫月「え、いや、そんなレベルじゃ……」
沙耶「いいのいいの、私がフォローするから!」
〈音楽を流す。控えめに、でも沙耶と目が合い少しずつ大胆に〉
雫月(……この感覚知ってる。人と踊るのって楽しいんだった。忘れちゃってたな)
〈姉と同じ舞台で目を合わせて踊っていたことを少し思い出す〉
〈曲に熱中するにつれて周りの視線を集めていく。藍理も気付き、視線を奪われる。初めてみる幸せそうな笑顔に、微笑む〉
〈踊り切ったところで拍手が起こる。二人きりでやっている気分だったのが気づいたら視線を集めていた。雫月は真っ赤になって縮こまり、沙耶の影に隠れる〉
藍理「なんで隠れるんだよ、かっこよかったぞ!」
〈サークル中が明るい雰囲気になり、沙耶にも優しく微笑まれる。雫月も最後には、赤くなりながらも控えめに笑う〉
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■Scene 3-4:
練習終了後、夕方 ―スタジオの隅
〈練習が終わり、隅で荷物をまとめながら千夏花梨と話す様子。〉
千夏「雫月、ダンスやってたの!?めっちゃ綺麗だった!」
雫月「いや……やってたってほどじゃないんだけどね……。でもふたりこそGIRLS凄かったよ」
花梨「楽しかったよね、だから、私たち入ろうかなって思ってて。よかったら雫月も一緒に入らない?」
千夏「入ろうよ!」
〈一瞬戸惑うけれど、さっき思い出した楽しさを振り返り拳を握る〉
雫月「うん、私も入りたい!」
〈3人で笑っているところに沙耶と莉子、Gilrsの女性の先輩が現れる〉
沙耶「いいこと聞いちゃった〜〜〜!」
莉子「きゃー!GIRLS獲得ってことですか!?」
沙耶「JAZZも負けてないよ〜!」
〈一気に賑やかになり歓迎ムードに嬉しくなる〉
雫月(もう一度、頑張ってみようかな。このサークルでなら)
〈雫月が藍理に視線を向け、藍理がすぐにそれに気付き、ヒラヒラと手を振る様子〉
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■Scene 4:
同日夜22時頃 ―練習後の帰り道。
〈そのまま女性陣でご飯へ行き、解散したあと、通りがかったコンビニで、藍理と莉子が出てくる。雫月はひとり〉
莉子「ね?超嬉しくない?」
藍理「よかったじゃん、頑張ってるもんな」
〈電子たばこを咥え、ガードレールにもたれかかる藍理。普段と違う雰囲気に足を止めてつい見てしまう。そのままゆるく莉子の頭に触れる〉
〈莉子は嬉しそうに笑い、戯れ合うようにして藍理の頬に唇を触れる。藍理は避ける様子もなく軽く笑って電子タバコを吸う〉
莉子「ふふ、藍理さん超かっこいい〜!」
藍理「はいはい、知ってる〜」
〈目撃してしまった雫月は、目を見開き、立ち尽くす〉
〈純粋に、かっこよくて優しくて王子様みたいな人だと、大学生ってすごいと夢見ていた藍理の像が崩れていく描写〉
雫月(――この人、絶対、好きになっちゃいけない人だ)
〈背を向けて立ち去る。表情に痛みと決意が混じる〉
雫月(大学生、怖ーー)
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(第1話終了)