双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~3
プロローグ・今までのように見つめられない
ルイゾン様の再婚相手として、ロベールとマルセルの継母になってほぼ十カ月。
王子たちのお披露目パーティが終わってホッとする間もなく、新しい年を祝う『新年の儀』が行われた。
王妃としての役割は、ルイゾン様の隣でバルコニーから手を振るだけだったが、無事に終えて胸を撫で下ろしたことは記憶に新しい。
次の公式行事は、王子たちの五歳の誕生パーティだ。
お飾りの王妃として契約結婚した私だが、これに関しては継母として準備から関わりたいとルイゾン様に申し出た。
ロベールとマルセルが大勢の人から誕生を祝福される初めての場なのだ。たくさんのプレゼントを見て目を丸くしたり、手を取り合ってはしゃいだりするふたりの姿を一番近くで見たかった。
無理を承知で頼み込んだのだが、ルイゾン様は、納得したように頷いてくれた。
『では、王子たちの誕生パーティの取りまとめはジュリアに一任しよう。正直、君が中心になってくれるとありがたい』
その信頼に応えるためにも、私は今日も朝から執務室で、確認事項に漏れがないか目を凝らす。
――カトラリーの数は足りるはず……室内に飾る生花を温室からもう少し回さなくては……王子たちの衣裳は間に合うかしら……。
休憩なしで考え込んでいると、女官長であるフロランスに声をかけられた。
「王妃殿下、国王陛下がいらっしゃいました。お通ししてよろしいですか?」
「え?」
――お忙しいルイゾン様が、わざわざ足を運んでくださった?
慌てて立ち上がる。
「もちろんよ。お茶をお出しして」
メイドのサニタが頷く間もなく、明るい笑顔のルイゾン様が中に入ってきた。
「突然すまないね、ジュリア。招待客の追加のリストができたから、必要かと思って持ってきたんだ」
私は恐縮しながらソファを勧める。
「ありがとうございます! どうぞ、こちらに。お忙しいところ申し訳ありません」
腰を下ろしたルイゾン様は、私をジッと見つめた。
「ついでがあったんだ。ジュリアの顔も見たかったしね」
――!? あ、いいえ、さすがだわ。どんな時も演出を忘れないのね。
心臓が跳ねかけたが、なんとか勘違いせずに踏みとどまる。この場にいるフロランスやサニタに対して、私たちが仲のいい夫婦であることを強調してくださっているのだ。
――本当に細やかな気配りをされる方だわ。
向かい側に座ると、ルイゾン様の金髪が窓からの日差しに煌めくのがよくわかる。
外の空気はまだ冷たいけれど、ルイゾン様の周りはいつも春の輝きに包まれていた。
「お時間大丈夫ですか?」
引き留めては悪いかもしれないと思って尋ねると、ルイゾン様は少しだけ眉を寄せる。
「私よりも、ジュリアが心配だよ」
「私ですか?」
「王子たちのために奔走しているのはわかるが、最近、根を詰めすぎている気がしてね。それもあって顔を見にきたんだ」
――そのためにわざわざ? そんなに疲れた顔をしているのかしら。
思わず頬に手を当てると、フロランスにキッパリと言われた。
「僭越ながら、国王陛下に同感です。このところ、王妃殿下は働きすぎかと」
ルイゾン様は、付き合いの長いフロランスの言葉からいろいろと汲み取ったかのように頷く。
「だろうと思った」
「……それほどでもありません」
小声で反論すると、フロランスがルイゾン様に再度告げた。
「このように自覚していらっしゃらないのです」
ルイゾン様は苦笑する。
「本当だな」
「私なんかまだまだです。ルイゾン様のお忙しさに比べたら」
魔獣の征伐に、国内外の政治に、貴族たちの掌握――ルイゾン様の超人的な作業量を思うとこれくらいなんでもない。
だけど、ルイゾン様は首を横に振った。
「私とジュリアじゃ、体力が違うよ」
「それは、そうですが」
――でも、せっかくの誕生パーティなのに。
落ち込んでしまったのが伝わったのか、ルイゾン様の声がさっきより温かくなる。
「よし、じゃあ、こうしよう。ジュリアは、王子たちの誕生日パーティが終わったら一度ゆっくり休むこと。いいね」
「終わったら、ですか?」
――つまり今はまだこのままでいいということ?
疑問を口にする前に、ルイゾン様の真っ直ぐな視線に再び射抜かれた。
「ああ。だが、くれぐれも無理はしないでくれ。体調は常に気にしてほしい」
「……はい」
晴れ渡った空のような、その青い瞳を見つめ返すことができず、とっさに視線を外す。
最近、時々、こうなるのだ。
ルイゾン様を今までのように見つめられなくなる。
心当たりは、ひとつだけ。
『ジュリア、私は……君の居場所になりたいんだ』
『……もうなってくれています』
二カ月前、ルイゾン様が言ってくれた言葉が嬉しすぎて、余韻のようなものが、時々私の胸で暴れ出すのだ。
王子たちのお披露目パーティが終わってホッとする間もなく、新しい年を祝う『新年の儀』が行われた。
王妃としての役割は、ルイゾン様の隣でバルコニーから手を振るだけだったが、無事に終えて胸を撫で下ろしたことは記憶に新しい。
次の公式行事は、王子たちの五歳の誕生パーティだ。
お飾りの王妃として契約結婚した私だが、これに関しては継母として準備から関わりたいとルイゾン様に申し出た。
ロベールとマルセルが大勢の人から誕生を祝福される初めての場なのだ。たくさんのプレゼントを見て目を丸くしたり、手を取り合ってはしゃいだりするふたりの姿を一番近くで見たかった。
無理を承知で頼み込んだのだが、ルイゾン様は、納得したように頷いてくれた。
『では、王子たちの誕生パーティの取りまとめはジュリアに一任しよう。正直、君が中心になってくれるとありがたい』
その信頼に応えるためにも、私は今日も朝から執務室で、確認事項に漏れがないか目を凝らす。
――カトラリーの数は足りるはず……室内に飾る生花を温室からもう少し回さなくては……王子たちの衣裳は間に合うかしら……。
休憩なしで考え込んでいると、女官長であるフロランスに声をかけられた。
「王妃殿下、国王陛下がいらっしゃいました。お通ししてよろしいですか?」
「え?」
――お忙しいルイゾン様が、わざわざ足を運んでくださった?
慌てて立ち上がる。
「もちろんよ。お茶をお出しして」
メイドのサニタが頷く間もなく、明るい笑顔のルイゾン様が中に入ってきた。
「突然すまないね、ジュリア。招待客の追加のリストができたから、必要かと思って持ってきたんだ」
私は恐縮しながらソファを勧める。
「ありがとうございます! どうぞ、こちらに。お忙しいところ申し訳ありません」
腰を下ろしたルイゾン様は、私をジッと見つめた。
「ついでがあったんだ。ジュリアの顔も見たかったしね」
――!? あ、いいえ、さすがだわ。どんな時も演出を忘れないのね。
心臓が跳ねかけたが、なんとか勘違いせずに踏みとどまる。この場にいるフロランスやサニタに対して、私たちが仲のいい夫婦であることを強調してくださっているのだ。
――本当に細やかな気配りをされる方だわ。
向かい側に座ると、ルイゾン様の金髪が窓からの日差しに煌めくのがよくわかる。
外の空気はまだ冷たいけれど、ルイゾン様の周りはいつも春の輝きに包まれていた。
「お時間大丈夫ですか?」
引き留めては悪いかもしれないと思って尋ねると、ルイゾン様は少しだけ眉を寄せる。
「私よりも、ジュリアが心配だよ」
「私ですか?」
「王子たちのために奔走しているのはわかるが、最近、根を詰めすぎている気がしてね。それもあって顔を見にきたんだ」
――そのためにわざわざ? そんなに疲れた顔をしているのかしら。
思わず頬に手を当てると、フロランスにキッパリと言われた。
「僭越ながら、国王陛下に同感です。このところ、王妃殿下は働きすぎかと」
ルイゾン様は、付き合いの長いフロランスの言葉からいろいろと汲み取ったかのように頷く。
「だろうと思った」
「……それほどでもありません」
小声で反論すると、フロランスがルイゾン様に再度告げた。
「このように自覚していらっしゃらないのです」
ルイゾン様は苦笑する。
「本当だな」
「私なんかまだまだです。ルイゾン様のお忙しさに比べたら」
魔獣の征伐に、国内外の政治に、貴族たちの掌握――ルイゾン様の超人的な作業量を思うとこれくらいなんでもない。
だけど、ルイゾン様は首を横に振った。
「私とジュリアじゃ、体力が違うよ」
「それは、そうですが」
――でも、せっかくの誕生パーティなのに。
落ち込んでしまったのが伝わったのか、ルイゾン様の声がさっきより温かくなる。
「よし、じゃあ、こうしよう。ジュリアは、王子たちの誕生日パーティが終わったら一度ゆっくり休むこと。いいね」
「終わったら、ですか?」
――つまり今はまだこのままでいいということ?
疑問を口にする前に、ルイゾン様の真っ直ぐな視線に再び射抜かれた。
「ああ。だが、くれぐれも無理はしないでくれ。体調は常に気にしてほしい」
「……はい」
晴れ渡った空のような、その青い瞳を見つめ返すことができず、とっさに視線を外す。
最近、時々、こうなるのだ。
ルイゾン様を今までのように見つめられなくなる。
心当たりは、ひとつだけ。
『ジュリア、私は……君の居場所になりたいんだ』
『……もうなってくれています』
二カ月前、ルイゾン様が言ってくれた言葉が嬉しすぎて、余韻のようなものが、時々私の胸で暴れ出すのだ。
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