双子王子の継母になりまして ~嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~3
――時間が経てば収まると思っていたのに、なかなか消えないわ。
幸い、ルイゾン様には悟られていないようだが、なんとかしたいと人知れず焦っていた。王妃が王の目を見つめられないなんて、あり得ないからだ。
――でも今は、フロランスたちがいるからまだマシだわ。
ふたりきりの時にこれが発動すると、緊張したかのように固まってしまうのだ。しばらくすると収まるのだが、気を悪くさせないかとヒヤヒヤする。
一緒にいる時間が長いほど固まる確率が高いので、最近はルイゾン様とふたりで寛ぐ夜の時間を意識的に短くしていた。
そんなことを考えていると、なんとか胸の暴走は収まる。
――そうよ、皆がいれば大丈夫。
安心した私は顔を上げて、微笑みを浮かべた。
ルイゾン様も心なしかホッとしたように息を吐く。
だが、指示を出していないのに、お茶の支度を終えたサニタとフロランスが揃って頭を下げた。
「それでは私たちはこれで失礼します」
「ご用があればお呼びください」
――え?
なぜ、と口にする前に、部屋から出ていってしまう。
――ふたりきりなっちゃうじゃない!?
そう思ったものの、私たちは国王と王妃だ。
内密の話でもあるのかと、気を利かしたのかもしれない。
――皆、優秀すぎるわ……。
そんな私の内心など知る由もないルイゾン様は、さっきよりもさらににこやかな様子でカップに手を伸ばした。
「いただこう。いい香りだ」
「えっと、そうですね」
ぎこちなくカップを持ち上げたが、精悍でありながら、大人の色気も漂っているその顔をやはり正面から見つめられない。
――本当に最近おかしいわ。
落ち着こうと香り高いお茶を飲みながら、自分の黒髪に目を止める。どんな光も吸い込みそうな真っ黒な髪を見て、冷静さを取り戻した。
――家族にさえ疎ましく思われていた私を、王妃にと願ってくれたルイゾン様のためにも、しっかりしなきゃ。
かけられた言葉が嬉しすぎるからといって、浮かれていてはいけない。
私には役割があるのだ。
――王子たちの継母という役割が。
髪色が魔力の系統を表すこの国では、ほとんどの人が攻撃魔法の赤系か、防御魔法の茶系の髪色をしている。
例外は三つだけ。
ルイゾン様の『王族の金髪』と、私の『悪魔(ディアブル)の黒髪』。
そして、双子王子たちの銀髪だ。
出産に立ち会った宮廷侍医の話によると、ふたりとも最初は金髪だった。だが、侍医の目の前であっという間に銀髪に変化したそうだ。
前例のない銀髪ゆえに、それが通常なのか特別なのかはわからない。
数こそ多くはないものの、金髪と黒髪は稀に現れる。だが、この国の銀髪はロベールとマルセルだけなのだ。古い記録にも載っていない。
その珍しさと、生母であるシャルロット様が出産の際に命を落としたこと、さらに不幸を呼ぶという双子に対する迷信から、ロベールとマルセルのお世話係はなかなか定着しなかった。
そのためルイゾン様は『王族の金髪』の特殊能力、『観察眼』を駆使して、私を王子たちの継母に指名した。
黒髪の私が国王陛下の再婚相手だなんてなにかの間違いだと思ったが、事情を聞いた私は、王子たちの継母になることを自ら望んだ。王子たちが私みたいに髪色で理不尽な目に遭うことがないように、少しでも役に立ちたいと思ったのだ。
ちなみに黒髪にも特殊能力がある。
私の場合、それは『予知』だった。
悪夢とセットになって夢の形で現れるため、自分ではコントロールできないのだが、ロベールとマルセルの危機を防いだことが一度だけあった。黒髪であることが誰かの役に立ったのは、それが初めてだ。
私はふっと目を細める。
――あの頃に比べたら、ふたりとも背が伸びたわ。誕生日を迎えたら、また大人びるでしょうね。
そんなことを考えながらお茶を飲んでいると、ルイゾン様が笑みを浮かべた。
「また、王子たちのことを考えているんだろう?」
「どうしておわかりになったのですか?」
問い返すと、当たり前のように言われた。
「顔を見ればわかる」
――ど、どんな顔だったのかしら?
ドギマギする私をよそに、ルイゾン様は付け加える。
「誕生パーティには、ふたりと同じ年頃の子どもたちがたくさん来る。いい友だちができればいいが」
実感のこもった言い方に、ふと尋ねる。
「ルイゾン様はあの年頃から、お友だちがいらっしゃったのですか?」
ちなみに私はいなかった。
家庭教師(ガヴァネス)のグラシア先生や、庭師のドニに乳母(ナニー)のネリー、成長してからはメイドのサニタなど、温かい人たちとの出会いはあったが、貴族令嬢との交流は無に等しい。父とミレーヌお義母様が、風聞を気にして黒髪の私を閉じ込めていたからだ。
幼い頃からすでに魔草に夢中だったので、特に寂しいとは思わなかったが、ロベールとマルセルには楽しみを分かち合える友だちがいたらいいなと願ってしまう。
ルイゾン様は、どうだったのだろうか。
王立植物園の園長であるバシュレー子爵とは、アカデミーの同級生だったそうだが、それ以前にご友人はいらっしゃったのだろうか。
だが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「いや? まったく。友だちなどいなかった」
幸い、ルイゾン様には悟られていないようだが、なんとかしたいと人知れず焦っていた。王妃が王の目を見つめられないなんて、あり得ないからだ。
――でも今は、フロランスたちがいるからまだマシだわ。
ふたりきりの時にこれが発動すると、緊張したかのように固まってしまうのだ。しばらくすると収まるのだが、気を悪くさせないかとヒヤヒヤする。
一緒にいる時間が長いほど固まる確率が高いので、最近はルイゾン様とふたりで寛ぐ夜の時間を意識的に短くしていた。
そんなことを考えていると、なんとか胸の暴走は収まる。
――そうよ、皆がいれば大丈夫。
安心した私は顔を上げて、微笑みを浮かべた。
ルイゾン様も心なしかホッとしたように息を吐く。
だが、指示を出していないのに、お茶の支度を終えたサニタとフロランスが揃って頭を下げた。
「それでは私たちはこれで失礼します」
「ご用があればお呼びください」
――え?
なぜ、と口にする前に、部屋から出ていってしまう。
――ふたりきりなっちゃうじゃない!?
そう思ったものの、私たちは国王と王妃だ。
内密の話でもあるのかと、気を利かしたのかもしれない。
――皆、優秀すぎるわ……。
そんな私の内心など知る由もないルイゾン様は、さっきよりもさらににこやかな様子でカップに手を伸ばした。
「いただこう。いい香りだ」
「えっと、そうですね」
ぎこちなくカップを持ち上げたが、精悍でありながら、大人の色気も漂っているその顔をやはり正面から見つめられない。
――本当に最近おかしいわ。
落ち着こうと香り高いお茶を飲みながら、自分の黒髪に目を止める。どんな光も吸い込みそうな真っ黒な髪を見て、冷静さを取り戻した。
――家族にさえ疎ましく思われていた私を、王妃にと願ってくれたルイゾン様のためにも、しっかりしなきゃ。
かけられた言葉が嬉しすぎるからといって、浮かれていてはいけない。
私には役割があるのだ。
――王子たちの継母という役割が。
髪色が魔力の系統を表すこの国では、ほとんどの人が攻撃魔法の赤系か、防御魔法の茶系の髪色をしている。
例外は三つだけ。
ルイゾン様の『王族の金髪』と、私の『悪魔(ディアブル)の黒髪』。
そして、双子王子たちの銀髪だ。
出産に立ち会った宮廷侍医の話によると、ふたりとも最初は金髪だった。だが、侍医の目の前であっという間に銀髪に変化したそうだ。
前例のない銀髪ゆえに、それが通常なのか特別なのかはわからない。
数こそ多くはないものの、金髪と黒髪は稀に現れる。だが、この国の銀髪はロベールとマルセルだけなのだ。古い記録にも載っていない。
その珍しさと、生母であるシャルロット様が出産の際に命を落としたこと、さらに不幸を呼ぶという双子に対する迷信から、ロベールとマルセルのお世話係はなかなか定着しなかった。
そのためルイゾン様は『王族の金髪』の特殊能力、『観察眼』を駆使して、私を王子たちの継母に指名した。
黒髪の私が国王陛下の再婚相手だなんてなにかの間違いだと思ったが、事情を聞いた私は、王子たちの継母になることを自ら望んだ。王子たちが私みたいに髪色で理不尽な目に遭うことがないように、少しでも役に立ちたいと思ったのだ。
ちなみに黒髪にも特殊能力がある。
私の場合、それは『予知』だった。
悪夢とセットになって夢の形で現れるため、自分ではコントロールできないのだが、ロベールとマルセルの危機を防いだことが一度だけあった。黒髪であることが誰かの役に立ったのは、それが初めてだ。
私はふっと目を細める。
――あの頃に比べたら、ふたりとも背が伸びたわ。誕生日を迎えたら、また大人びるでしょうね。
そんなことを考えながらお茶を飲んでいると、ルイゾン様が笑みを浮かべた。
「また、王子たちのことを考えているんだろう?」
「どうしておわかりになったのですか?」
問い返すと、当たり前のように言われた。
「顔を見ればわかる」
――ど、どんな顔だったのかしら?
ドギマギする私をよそに、ルイゾン様は付け加える。
「誕生パーティには、ふたりと同じ年頃の子どもたちがたくさん来る。いい友だちができればいいが」
実感のこもった言い方に、ふと尋ねる。
「ルイゾン様はあの年頃から、お友だちがいらっしゃったのですか?」
ちなみに私はいなかった。
家庭教師(ガヴァネス)のグラシア先生や、庭師のドニに乳母(ナニー)のネリー、成長してからはメイドのサニタなど、温かい人たちとの出会いはあったが、貴族令嬢との交流は無に等しい。父とミレーヌお義母様が、風聞を気にして黒髪の私を閉じ込めていたからだ。
幼い頃からすでに魔草に夢中だったので、特に寂しいとは思わなかったが、ロベールとマルセルには楽しみを分かち合える友だちがいたらいいなと願ってしまう。
ルイゾン様は、どうだったのだろうか。
王立植物園の園長であるバシュレー子爵とは、アカデミーの同級生だったそうだが、それ以前にご友人はいらっしゃったのだろうか。
だが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「いや? まったく。友だちなどいなかった」