私の世界
第二話
翌朝、私は少し早めに教室に着いた。
いつもなら友達とおしゃべりしながら、朝をいっしょに登校するはずだったけど、ミツキさんが気になって仕方がなかったからだ。
あの昨夜のメッセージが頭から離れられなかった。
教室に入ると、ミツキさんの席は空いてた。
四日目になる。その机の上には何も置かれてなくて、まるで最初から誰も座ってなかったかのような状態だった。椅子も机にきちんとしまわれてて、整然としてる。
朝の日差しが窓から差し込んで、その空席だけを照らしてるように見えた。
まるでスポットライトが当たってるみたいだった。この教室の中で、そのミツキさんの机だけが完璧に片付いているように見えた。
クラスメイトたちは普通に話したり笑ったりしてる。
誰も気にしてない。私だけが、その空っぽの席を見つめてた。
他のみんなにとって、ミツキさんの存在はそれほど重要じゃないんだろう。でも昨夜のメッセージを聞いた私には、その空席が異様に大きく見えた。
「おはよう!」
友達の声で我に返った。いつものメンバーが集まってきた。彼女たちの明るい笑顔を見てると、昨夜の緊迫した雰囲気が夢だったような気がしてくる。
「おはよう」
私は笑顔を作って挨拶した。でも心はまだあの空席に向いてた。ミツキさんは今、どこで何をしてるんだろう。本当に困ってるんだろうか。
「昨日の深夜ドラマ見た?」
「見た見た!俳優さん、超かっこよかった」
「でも、あの髪型はどうかと思うけど」
いつもの会話が始まった。私は適当に相槌を打ちながら、時々ミツキさんの席を振り返った。そのたびに、空席が私を見返してるような気がした。
朝のホームルームが始まっても、先生は出席確認で彼女が学校を休んでいる、と言っただけで、その理由については何も言わなかった。
もしかしたら、先生にとっても、ミツキさんの欠席は日常的なことなのかもしれない。
それにしても、四日も続けて休むなんて珍しい。
授業中も、私の集中力は散漫だった。教科書を開いてはいるものの、文字が頭に入ってこない。
ミツキさんのボイスメッセージが、繰り返し脳内で再生される。あの弱々しい声、電車の音、そして『きさらぎ駅』という謎の言葉。
授業中、先生が黒板に書いた数式を見ながら、私は昨夜のことを思い返してた。あの紫色の空の画像は本物だったんだろうか。それとも何かの加工だったんだろうか。でもあまりにもリアルに見えた。
昼休みになって、友達と一緒にお弁当を食べてる時、私は思い切って口を開いた。
「如月さんのこと、心配じゃない?」
友達の一人がお箸を止めて、私を見た。
「え?なんで?」
「だってもう四日も休んでるでしょ?」
「風邪が長引いてるんじゃない?」
「それか、また例のやつでしょ」
また『例のやつ』という言葉が出た。それって、なんだろう?
「例のやつって、何?」
「不登校っていうか、学校に来たくない症候群みたいなやつ」
「あの子、前からちょっと変だったじゃん」
「一人でいるのが好きみたいだし」
友達の言葉が、なんとなく冷たく聞こえた。
確かにミツキさんは目立たない人だったけど、こんな風に言われるほど変な人だったんだろうか。
私には、彼女がただシャイなだけのように見えてた。
でも友達の反応を見てると、ミツキさんが時々学校を休むことは、クラスでは周知の事実だったみたいだ。
私が知らなかっただけで、彼女は以前から学校に来られない日があったのかもしれない。
「もしかして、何かあったのかも?」
勇気を出して、私がそう言うと、友達の一人がため息をついた。
「あの子のことなんて、気にしなくていいって」
「そうそう。私たちには関係ないし」
「あ、そういえばさ。」
話題はあっさりと変わってしまった。
私だけが、なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えたまま、お弁当を食べ続けた。
周りの生徒たちの笑い声が教室に響いてる。でも私にはその音が遠くから聞こえてくるような気がした。まるで分厚いガラスに囲まれてるみたいだった。
友達は楽しそうに話してる。
でも私はその輪の中にいながら、どこか置いてけぼりを食った気分だった。
ミツキさんのことを心配する私を、彼女たちは理解してくれない。それが悲しかった。
きっと私も、普段は同じような態度を取ってるのかもしれない。
誰かが困ってても、「関係ない」と思って見過ごしてしまうことがあったかもしれない。
でも昨夜のを聞いてから、そんな自分が嫌になってしまったのだ。
放課後、私はいつものように一緒に帰る。
もちろん、特にミツキさんの話はない。
私はいつものように話を受け流しながら、友達といっしょに家へと戻った。
家に着いて部屋に入ると、すぐにスマホを手に取った。
昨日のボイスメッセージのことが頭から離れない。もう一度聞いてみようかとも思ったけど、なんとなく怖くて手が止まった。
SNSアプリを開いて、ミツキさんのアカウントを探した。
『みつき』の名前を見つけて、プロフィールをタップする。
昨日見た時から、何か変化があったかな?
投稿を見てみる。すると、新しい画像が増えてた。今度は線路の画像だった。
空は相変わらず紫がかった色で、それに線路が照らされている。でも、おかしいのは空の色だけじゃない。とにかく、その線路の画像は普通じゃなかった。
まるで日本ではないかのように、線路が地平線の向こうまで無限に続いているように見えたからかもしれない。それに線路の向こうに見える風景が変に見えた。小さくてよく見えないけれど、建物らしきものが見えた。ただ、その形は現実のものとは思えない。遠くにあるから、とかじゃない。まるで絵の中の世界みたいだった。
画像の下には、短い文章が書かれてた。
『誰も私を見てくれない』
その一言に、胸がキュンとなった。
ミツキさんの孤独感が、たった一行の文章から痛いほど伝わってくる。
他の投稿も見てみた。
最近のものほど、文章が増えてる。そしてどれも暗い内容だった。
『消えてしまいたい』
『どこか遠くに行きたい』
『私なんていなくても、誰も困らない』
どれも悲しい言葉ばかりだった。コメントは相変わらずゼロ。いいねもついてない。
本当に誰も見てないみたい。ミツキさんの心の叫びが、誰にも届いてない。
私は画面をスクロールして、もっと古い投稿を見てみた。
一年前、二年前の画像も並んでる。最初の頃は普通の画像だった。
学校の校庭、近所の公園、コンビニの前。どこにでもある日常の風景だ。でも文章は最初からどこか寂しげだった。
『今日も一人だった』
『話しかけられなかった』
『みんな楽しそう』
時間が経つにつれて、文章はどんどん暗くなってる。
そして画像の色合いも少しずつ変になってる。最初は普通の色だったのに、だんだんと現実離れした色みたいになってる。
私は気がついた。これって、ミツキさんの心の変化を表してるのかもしれない。
最初は普通だったのに、だんだんと孤独感が深くなって、ついには現実とは違う世界の画像を投稿するようになった。彼女の心の状態が、投稿に反映されてるのかもしれない。
最新の投稿をもう一度見た。あの不気味な線路の画像。紫色の空の下にある、不自然な風景が、画面いっぱいに広がってる。
この画像を見てると、なんとなく吸い込まれそうな感覚になった。この線路の画像を撮りながら、ミツキさんは何を見てるんだろう。何を感じてるんだろう。
小学校の時の後悔が、胸の奥で疼いた。
またなのかな?
また誰かが困ってるのに、私は何もしないの?
今度こそ、見て見ぬふりはしたくない。
でもミツキさんとは友達じゃない。話したこともほとんどない。私が口を出すことじゃないのかもしれない。
そんなことをしてもいいのだろうか?
それでも、あのボイスメッセージの声が頭に残ってる。
か細くて、必死で、助けを求める声。あれは演技じゃない。本当に困ってる人の声だった。
私はメッセージ画面を開いた。
ミツキさんとのやり取りを見ると、昨日のボイスメッセージだけが表示されてる。
返事をしようかと思ったけど、何て書けばいいか分からない。
『大丈夫?』『どこにいるの?』『助けが必要?』
どれも軽々しく聞こえる。彼女の状況を理解してない私が、こんな簡単な言葉で済ませていいんだろうか。
私は画面を見つめたまま、しばらく考えた。
そして短いメッセージを打った。
『ミツキさん?無事ですか?』
送信ボタンを押そうとして、手を止めた。
これでいいのかな。でも何もしないよりはマシだよね。私の気持ちは伝わるかな?
私は意を決して送信ボタンを押した。
既読マークはすぐについた。でも返事は来なかった。
ミツキさんは私のメッセージを見てくれたんだろうか。それとも忙しくて返事ができないんだろうか。
私は不安になって、もう一度彼女の投稿を見た。
そして気がついた。投稿時間を見ると、どれも深夜や明け方に投稿されてる。
まるで普通の人が寝てる時間に起きて、一人でいる時間を投稿してるみたい。
深夜の時間帯に一人でいるということは、彼女は眠れずにいるのかもしれない。
何かに悩んでて、夜も眠れない状態なのかもしれない。それでその孤独な時間に画像を投稿してるのかもしれない。
今度こそ、私は本気で心配になった。
ミツキさんに何かが起きてる。それは確実だった。
でもそれが何なのか、どうすれば助けられるのかは分からない。中学生の私には、限界がある。
私はスマホを握りしめて、天井を見上げた。
明日、学校でもう一度、ミツキさんが来ているか確認しよう。
そしてもし彼女がまだ来てなかったら……。
今度こそ、見て見ぬふりはしない。絶対に。ミツキさんを助けるために、何かできることを見つけなければならない。
たとえ小さなことでも、私にできることがあるはずだ。
窓の外では、普通の夜が続いてる。
でもどこかで、ミツキさんが助けを求めてる。その事実を忘れてはいけない、と思った。
その夜、私は何度もミツキさんの投稿を確認した。
新しい投稿はなかったけど、既存の画像を見てるだけで、彼女の孤独感が痛いほど伝わってきた。私は彼女を助けたい。でもどうすればいいか分からない。
ベッドに入っても、なかなか眠れなかった。
頭の中で、あのボイスメッセージが何度も再生される。
「助けて」「きさらぎ駅にいるの」
その声が、夜の静寂の中でより一層切実に響く気がした。
私は天井を見上げながら、明日の計画を立てた。
まず、ミツキさんの席を確認する。彼女が来てなかったら、先生に相談してみる。それでもダメなら、何か他の方法を考える。
きっと何かできることがあるはずだ。私はそう信じて、ようやく眠りについた。
でも夢の中でも、あの紫色の地平線の彼方へ続く、線路の画像が頭から離れなかった。
いつもなら友達とおしゃべりしながら、朝をいっしょに登校するはずだったけど、ミツキさんが気になって仕方がなかったからだ。
あの昨夜のメッセージが頭から離れられなかった。
教室に入ると、ミツキさんの席は空いてた。
四日目になる。その机の上には何も置かれてなくて、まるで最初から誰も座ってなかったかのような状態だった。椅子も机にきちんとしまわれてて、整然としてる。
朝の日差しが窓から差し込んで、その空席だけを照らしてるように見えた。
まるでスポットライトが当たってるみたいだった。この教室の中で、そのミツキさんの机だけが完璧に片付いているように見えた。
クラスメイトたちは普通に話したり笑ったりしてる。
誰も気にしてない。私だけが、その空っぽの席を見つめてた。
他のみんなにとって、ミツキさんの存在はそれほど重要じゃないんだろう。でも昨夜のメッセージを聞いた私には、その空席が異様に大きく見えた。
「おはよう!」
友達の声で我に返った。いつものメンバーが集まってきた。彼女たちの明るい笑顔を見てると、昨夜の緊迫した雰囲気が夢だったような気がしてくる。
「おはよう」
私は笑顔を作って挨拶した。でも心はまだあの空席に向いてた。ミツキさんは今、どこで何をしてるんだろう。本当に困ってるんだろうか。
「昨日の深夜ドラマ見た?」
「見た見た!俳優さん、超かっこよかった」
「でも、あの髪型はどうかと思うけど」
いつもの会話が始まった。私は適当に相槌を打ちながら、時々ミツキさんの席を振り返った。そのたびに、空席が私を見返してるような気がした。
朝のホームルームが始まっても、先生は出席確認で彼女が学校を休んでいる、と言っただけで、その理由については何も言わなかった。
もしかしたら、先生にとっても、ミツキさんの欠席は日常的なことなのかもしれない。
それにしても、四日も続けて休むなんて珍しい。
授業中も、私の集中力は散漫だった。教科書を開いてはいるものの、文字が頭に入ってこない。
ミツキさんのボイスメッセージが、繰り返し脳内で再生される。あの弱々しい声、電車の音、そして『きさらぎ駅』という謎の言葉。
授業中、先生が黒板に書いた数式を見ながら、私は昨夜のことを思い返してた。あの紫色の空の画像は本物だったんだろうか。それとも何かの加工だったんだろうか。でもあまりにもリアルに見えた。
昼休みになって、友達と一緒にお弁当を食べてる時、私は思い切って口を開いた。
「如月さんのこと、心配じゃない?」
友達の一人がお箸を止めて、私を見た。
「え?なんで?」
「だってもう四日も休んでるでしょ?」
「風邪が長引いてるんじゃない?」
「それか、また例のやつでしょ」
また『例のやつ』という言葉が出た。それって、なんだろう?
「例のやつって、何?」
「不登校っていうか、学校に来たくない症候群みたいなやつ」
「あの子、前からちょっと変だったじゃん」
「一人でいるのが好きみたいだし」
友達の言葉が、なんとなく冷たく聞こえた。
確かにミツキさんは目立たない人だったけど、こんな風に言われるほど変な人だったんだろうか。
私には、彼女がただシャイなだけのように見えてた。
でも友達の反応を見てると、ミツキさんが時々学校を休むことは、クラスでは周知の事実だったみたいだ。
私が知らなかっただけで、彼女は以前から学校に来られない日があったのかもしれない。
「もしかして、何かあったのかも?」
勇気を出して、私がそう言うと、友達の一人がため息をついた。
「あの子のことなんて、気にしなくていいって」
「そうそう。私たちには関係ないし」
「あ、そういえばさ。」
話題はあっさりと変わってしまった。
私だけが、なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えたまま、お弁当を食べ続けた。
周りの生徒たちの笑い声が教室に響いてる。でも私にはその音が遠くから聞こえてくるような気がした。まるで分厚いガラスに囲まれてるみたいだった。
友達は楽しそうに話してる。
でも私はその輪の中にいながら、どこか置いてけぼりを食った気分だった。
ミツキさんのことを心配する私を、彼女たちは理解してくれない。それが悲しかった。
きっと私も、普段は同じような態度を取ってるのかもしれない。
誰かが困ってても、「関係ない」と思って見過ごしてしまうことがあったかもしれない。
でも昨夜のを聞いてから、そんな自分が嫌になってしまったのだ。
放課後、私はいつものように一緒に帰る。
もちろん、特にミツキさんの話はない。
私はいつものように話を受け流しながら、友達といっしょに家へと戻った。
家に着いて部屋に入ると、すぐにスマホを手に取った。
昨日のボイスメッセージのことが頭から離れない。もう一度聞いてみようかとも思ったけど、なんとなく怖くて手が止まった。
SNSアプリを開いて、ミツキさんのアカウントを探した。
『みつき』の名前を見つけて、プロフィールをタップする。
昨日見た時から、何か変化があったかな?
投稿を見てみる。すると、新しい画像が増えてた。今度は線路の画像だった。
空は相変わらず紫がかった色で、それに線路が照らされている。でも、おかしいのは空の色だけじゃない。とにかく、その線路の画像は普通じゃなかった。
まるで日本ではないかのように、線路が地平線の向こうまで無限に続いているように見えたからかもしれない。それに線路の向こうに見える風景が変に見えた。小さくてよく見えないけれど、建物らしきものが見えた。ただ、その形は現実のものとは思えない。遠くにあるから、とかじゃない。まるで絵の中の世界みたいだった。
画像の下には、短い文章が書かれてた。
『誰も私を見てくれない』
その一言に、胸がキュンとなった。
ミツキさんの孤独感が、たった一行の文章から痛いほど伝わってくる。
他の投稿も見てみた。
最近のものほど、文章が増えてる。そしてどれも暗い内容だった。
『消えてしまいたい』
『どこか遠くに行きたい』
『私なんていなくても、誰も困らない』
どれも悲しい言葉ばかりだった。コメントは相変わらずゼロ。いいねもついてない。
本当に誰も見てないみたい。ミツキさんの心の叫びが、誰にも届いてない。
私は画面をスクロールして、もっと古い投稿を見てみた。
一年前、二年前の画像も並んでる。最初の頃は普通の画像だった。
学校の校庭、近所の公園、コンビニの前。どこにでもある日常の風景だ。でも文章は最初からどこか寂しげだった。
『今日も一人だった』
『話しかけられなかった』
『みんな楽しそう』
時間が経つにつれて、文章はどんどん暗くなってる。
そして画像の色合いも少しずつ変になってる。最初は普通の色だったのに、だんだんと現実離れした色みたいになってる。
私は気がついた。これって、ミツキさんの心の変化を表してるのかもしれない。
最初は普通だったのに、だんだんと孤独感が深くなって、ついには現実とは違う世界の画像を投稿するようになった。彼女の心の状態が、投稿に反映されてるのかもしれない。
最新の投稿をもう一度見た。あの不気味な線路の画像。紫色の空の下にある、不自然な風景が、画面いっぱいに広がってる。
この画像を見てると、なんとなく吸い込まれそうな感覚になった。この線路の画像を撮りながら、ミツキさんは何を見てるんだろう。何を感じてるんだろう。
小学校の時の後悔が、胸の奥で疼いた。
またなのかな?
また誰かが困ってるのに、私は何もしないの?
今度こそ、見て見ぬふりはしたくない。
でもミツキさんとは友達じゃない。話したこともほとんどない。私が口を出すことじゃないのかもしれない。
そんなことをしてもいいのだろうか?
それでも、あのボイスメッセージの声が頭に残ってる。
か細くて、必死で、助けを求める声。あれは演技じゃない。本当に困ってる人の声だった。
私はメッセージ画面を開いた。
ミツキさんとのやり取りを見ると、昨日のボイスメッセージだけが表示されてる。
返事をしようかと思ったけど、何て書けばいいか分からない。
『大丈夫?』『どこにいるの?』『助けが必要?』
どれも軽々しく聞こえる。彼女の状況を理解してない私が、こんな簡単な言葉で済ませていいんだろうか。
私は画面を見つめたまま、しばらく考えた。
そして短いメッセージを打った。
『ミツキさん?無事ですか?』
送信ボタンを押そうとして、手を止めた。
これでいいのかな。でも何もしないよりはマシだよね。私の気持ちは伝わるかな?
私は意を決して送信ボタンを押した。
既読マークはすぐについた。でも返事は来なかった。
ミツキさんは私のメッセージを見てくれたんだろうか。それとも忙しくて返事ができないんだろうか。
私は不安になって、もう一度彼女の投稿を見た。
そして気がついた。投稿時間を見ると、どれも深夜や明け方に投稿されてる。
まるで普通の人が寝てる時間に起きて、一人でいる時間を投稿してるみたい。
深夜の時間帯に一人でいるということは、彼女は眠れずにいるのかもしれない。
何かに悩んでて、夜も眠れない状態なのかもしれない。それでその孤独な時間に画像を投稿してるのかもしれない。
今度こそ、私は本気で心配になった。
ミツキさんに何かが起きてる。それは確実だった。
でもそれが何なのか、どうすれば助けられるのかは分からない。中学生の私には、限界がある。
私はスマホを握りしめて、天井を見上げた。
明日、学校でもう一度、ミツキさんが来ているか確認しよう。
そしてもし彼女がまだ来てなかったら……。
今度こそ、見て見ぬふりはしない。絶対に。ミツキさんを助けるために、何かできることを見つけなければならない。
たとえ小さなことでも、私にできることがあるはずだ。
窓の外では、普通の夜が続いてる。
でもどこかで、ミツキさんが助けを求めてる。その事実を忘れてはいけない、と思った。
その夜、私は何度もミツキさんの投稿を確認した。
新しい投稿はなかったけど、既存の画像を見てるだけで、彼女の孤独感が痛いほど伝わってきた。私は彼女を助けたい。でもどうすればいいか分からない。
ベッドに入っても、なかなか眠れなかった。
頭の中で、あのボイスメッセージが何度も再生される。
「助けて」「きさらぎ駅にいるの」
その声が、夜の静寂の中でより一層切実に響く気がした。
私は天井を見上げながら、明日の計画を立てた。
まず、ミツキさんの席を確認する。彼女が来てなかったら、先生に相談してみる。それでもダメなら、何か他の方法を考える。
きっと何かできることがあるはずだ。私はそう信じて、ようやく眠りについた。
でも夢の中でも、あの紫色の地平線の彼方へ続く、線路の画像が頭から離れなかった。