絆の光は未来へ

（あの時は俺が…）

手が微かに震えた。過去の屈辱と現在の立場の違い。復讐心ではない、もっと複雑な感情が胸を支配していた。
内診を終えて診察室に戻って来た時だった。

「先生…あの時は、本当にすみませんでした」

診察後、彼女がついに謝罪の言葉を口にした。

「今日は患者さんとして来られたんですよね。それ以外のことは関係ありません」

俺は医師として答えた。だが、心の奥では叫びたかった。関係ないわけがない。お前のせいで、俺はどれだけ苦しんだと思っているんだ、と。

彼女が去った後、俺は一人診察室に残された。手は相変わらず震えていた。過去は消せない。あの時の記憶も、屈辱も、そして自分を売った事実も。

それでも、俺は今、医師として患者を診ることができた。感情に流されることなく、プロフェッショナルとして振る舞えた。それが、あの暗い過去から立ち直った証拠なのかもしれない。

だが、今夜もまた、あの夜の記憶が夢に出てくるだろう。ホテルの部屋の匂い、彼女の体温、そして手渡される現金の感触。

それらすべてが、俺の心に深く刻まれた傷として、これからも残り続けるのだ。