絆の光は未来へ

光希side

診察室を出た後、俺は病院の最上階にある展望スペースへ向かった。夕日が建物の向こうに沈もうとしている。

田中美智子。

その名前を心の中で呟くだけで、胃の奥がきりきりと痛む。あの女が診察室に入ってきた瞬間、俺の時間は3年前に巻き戻った。

ホストクラブ「エクスタシー」
俺がそこで働いていた頃のことを思い出したくなかった。でも、思い出してしまった。

「光くん、今度お店の外で会わない?」

最初はそんな軽い誘いだった。俺は断った。
でも、彼女は諦めなかった。

「お金、困ってるんでしょ?医学部って大変よね」

俺の弱みを握っていた。学費、生活費、すべてがカツカツだった。母さんが倒れた今、俺がなんとしてでも稼がないと。

「一晩だけでも、かなりの額を出すわ」

初めて彼女とお店からほど遠くないホテルに行った夜。俺は震えていた。

「大丈夫よ、光くん。優しくしてあげる」

でも、いざその時になると、俺はできなかった。
体が拒否した。心が拒否した。

「ごめん、やっぱり無理だ」

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