絆の光は未来へ

予期せぬ足止め

その頃、光希と蓮は、病院の産婦人科病棟のナースステーションで、予期せぬ足止めを食らっていました。

時刻はすでに定時を過ぎていましたが、数人の実習中の医学生たちが、彼らに質問攻めを浴びせていたのです。

「工藤先生、この症例の鑑別診断について、もう少し詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「一ノ瀬先生、このエコー画像の見方で疑問点がありまして……」

立て続けに飛んでくる専門的な質問に、光希と蓮は真摯に対応していました。

普段であれば、若手医師の育成のため、喜んで応じる内容です。しかし、この日はあゆかとの約束がありました。

(あゆか、待たせているな……)

光希はちらりと腕時計に目をやりました。産婦人科での検査が終われば、あゆかを迎えに行き、一緒に夕食をとる予定でした。

彼はスマートフォンを取り出し、あゆかに素早くメッセージを送りました。

「遅れる。少し待ってて。」

簡潔なメッセージでしたが、そこには「心配しないで待っていてほしい」という光希の思いが込められていました。

光希は直ぐに既読が付かないのが引っかかるも、ポケットにしまった。

蓮もまた、同様に医学生の質問に答えながらも、光希の様子を気にしているようでした。

彼ら二人は、あゆかが今、絶望的な状況に置かれているとは知る由もありませんでした。
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