絆の光は未来へ

内診室での診察

診察室で問診を終え、あゆかが隣の内診室へと続くドアから中へ入る。その背中が、わずかに震えているのが光希の目には見て取れた。

彼女が去った後、診察室に一瞬の静寂が訪れる。光希はひとつ息を吐き、デスクの上の電子カルテに目を落とした。

佐々川あゆか、17歳。幼馴染みである彼女の病歴は、彼の医学生時代から、深く胸に刻まれている。

あの時、そばにいることしかできなかった無力感が、彼を産婦人科医の道へと突き動かした原点だ。

(大丈夫だ、あゆか。俺は医者だ。お前を守るために、ここにいるんだから)
心の中で呟き、彼は内診室へと向かう。ドアをノックし、あゆかの「準備できました」という震える声を聞き届けてから、静かに中へ入った。

内診室は、いつもと変わらない無機質な空間だ。診察台の横に、医師と患者の目線を遮るための低いカーテンが設置されている。

光希はカーテンの手前で立ち止まり、その向こう側へと目を向けた。診察台に腰掛け、スカートを捲り上げ、ピンクのショーツを足元のランドリーバスケットに置いたあゆかの姿は、光希の心を、一瞬だけ医療の領域の外へと引きずり込んだ。

カーテンで顔は隠されており、彼女の表情は全く読み取れない。 だが、彼女の震える手や、診察台に置かれた腕の指先が、その動揺を痛いほど伝えていた。
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