深夜13時の夜行バス
引き際、と言うのかあまりしつこく誘うのは逆効果だと思ってるのか、それとも弓削くんの前だからか、塩原は「泊まっていく?」とは言い出さず、それでも彼はタクシーを拾うのを手伝ってくれた。
流石にこの時間帯、塩原も弓削くんもタクシーで帰る羽目になったが、塩原が
「前川は女だし危ないから一番最初に乗りなよ」と。
そうゆう……優しいことされると、私どうすればいいのか分かんなくなる。
今すぐに塩原の手に縋りつきたくなるけど、そんな私塩原は望んでいない。
私も―――
私こそ、今度のプロジェクトが終わったら塩原に返事をしよう―――?
でも私は何て答えるべきなんだろう。
一台だけ通ったタクシーに乗り込み行先を伝えてタクシーは発車した。
不思議なことにタクシーの中だとあの深夜バスの様に睡魔に襲われなかった。
単に上がって行く料金メーターが気になるってこともあるかもしれないけど。
「仕事の帰りですか、夜遅くまで大変ですね。今この時代に」と運転手さんは同情気味だった。
「ええ、まぁ大事なプロジェクトを抱えているので」私は相変わらず資料とタブレット端末を両手に運転手さんの方も見ず、未だ仕事モードから切り替えられない。
「大変ですねぇ、いかにも仕事できそうだ」運転手さんはバックミラー越しに同情気味とも皮肉ともつかない複雑な視線を寄越してきた。
「仕事、好きですから」と愛想笑いを浮かべながらも、話している最中に通った道が例の店舗を開店する場所の近くだと言うことに気付いた。
「この辺ていつもこんな感じなんですか?お昼も夜も…言っちゃ悪いですけど殺風景な」
はじめて私からする質問に運転手さんは喜々として頷いた。
「まぁこんなもんですよ。昔から開発計画はあったもののどれも頓挫しちまって」
「頓挫……?」
「理由は良く分からないんですがね、この場所に何か大きなものを建てたりすると良くないことが起こって。普通の民家はまぁぼちぼちあるんですが。
まぁありがちですが作業員が事故にあったり。あ、死人も出たって噂があったかな…
あ、この道通称”悲恋坂”て言うんですよ」