野いちご源氏物語 二五 蛍(ほたる)
その夜、源氏(げんじ)(きみ)花散里(はなちるさと)(きみ)のところにお泊まりになった。
競技会にいらっしゃっていたお客様たちのことをお話しになる。
兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様が一番ご立派でしたね。お顔立ちはそれほどでもないけれど、ご態度に品があって魅力的な方です。あなたもこっそりご覧になりましたか。私としては完璧な宮様とまでは言えないような気がするけれど」

花散里の君は人間観察がお得意なの。
「落ち着きがおありで、兄君(あにぎみ)のあなた様よりお年上のようでいらっしゃいますね。昔、姉の女御(にょうご)のお(とも)内裏(だいり)に上がりましたとき、ちらりとお姿を拝見したことがございます。あれから美しくお年を召されました」
それから他の親王様のお名前を()げて、
「あの方もご立派でいらっしゃいましたけれど、親王様と申し上げるほどの品格は感じられませんでした」
ともおっしゃる。

<少し見ただけでよく分かるものだ>
と源氏の君は感心するけれど、微笑(ほほえ)むだけになさる。
源氏の君は人の悪口をはっきりおっしゃる方ではないの。
玉葛(たまかずら)姫君(ひめぎみ)のもうひとりの求婚者である右大将(うだいしょう)様のことも、内心では今ひとつだと思っていらっしゃるのよ。
<真面目で立派な人物だと世間では高く評価されているが、私に言わせればたいしたことはない。あれが姫君の婿(むこ)などになったらつまらないだろう>
とお思いだけれど、お口には出されない。
< 10 / 20 >

この作品をシェア

pagetop