野いちご源氏物語 二五 蛍(ほたる)
源氏(げんじ)(きみ)がお泊まりになるとき、花散里(はなちるさと)(きみ)寝床(ねどこ)を別々になさる。
<どうしてこんなふうな関係になってしまったのか>
と源氏の君は悲しく思われる。
でも女君(おんなぎみ)はとくに気になさらずに、華やかな競技会が夏の(まち)で行われたことを喜んでいらっしゃる。
これまで六条(ろくじょう)(いん)(もよお)(ごと)といえば、春の町か秋の町でばかり行われていたから。

「夏の節句(せっく)でしたから、夏の町を会場にして私に花を持たせてくださったのですね」
おっとりとおっしゃる。
たいしたことのないご感想だけれど、女君のこういう(ひか)えめなご態度を、源氏の君は健気(けなげ)だとお思いになる。
それでも、女君の謙遜(けんそん)()(つくろ)うことはなさらない。
「美しい花だったでしょう」
このおふたりはもう、<色っぽいやりとりは自分たちには不要だ>と思っていらっしゃるのかしら。

「あまりこちらをお訪ねできておりませんが、たまにお目にかかると心が安らぐのですよ」
他の恋人におっしゃれば歯の()台詞(せりふ)だけれど、お相手が花散里の君だから、それらしく聞こえる。
女君はご自分のいつもの寝床を源氏の君にお(ゆず)りになって、ついたてを挟んだところでお休みになった。
源氏の君は女君のお考えを尊重(そんちょう)なさって、無理に近づくことはなさらない。
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