野いちご源氏物語 二五 蛍(ほたる)
その年の梅雨(つゆ)はいつもよりも長くて、空も心も晴れない。
六条(ろくじょう)(いん)女君(おんなぎみ)たちは物語の絵巻(えまき)を見て退屈しのぎをなさっている。
明石(あかし)(きみ)はそういう方面でも趣味がよいから、おもしろい絵巻を選んで春の御殿(ごてん)の明石の姫君(ひめぎみ)にお贈りになった。

玉葛(たまかずら)の姫君は、絵巻というものがめずらしくて夢中になっていらっしゃる。
ご覧になるだけではなく、書き写すこともなさっているの。
そういうことが上手な女房も何人かいて、お部屋のあちこちで作業している。
たくさんの物語をご覧になっても、
<登場人物の境遇(きょうぐう)はさまざまでも、私のような奇妙(きみょう)な境遇の人はいない>
とため息をおつきになる。
大夫(たいふ)(げん)のような恐ろしい男は『住吉(すみよし)物語』に出てくるのだけれど。
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