野いちご源氏物語 二五 蛍(ほたる)
源氏(げんじ)(きみ)姫君(ひめぎみ)に近づいておっしゃる。
「難しい話になってしまいましたね。さて、ここにある昔話には、私のように真面目すぎて(そん)をする男は出てきますか。堅物(かたぶつ)冷淡(れいたん)な姫君はいらっしゃいますか。どれほど冷淡でも、あなたのように気づかないふりをなさるほどではないでしょうね。では、世にもめずらしい物語として私たちのことを書かせるのはどうだろう」

姫君は気まずくてお顔をお隠しになる。
「物語になさるまでもなく、このような奇妙(きみょう)な関係は世間の(うわさ)として広まりましょう」
「そう、奇妙ですね。だからこそおもしろい」
源氏の君は姫君をお抱きしめになった。

「昔話のなかにも親に(そむ)く子どもは出てこないでしょう。(おや)不孝(ふこう)(ほとけ)様もお許しになりませんよ」
姫君はお顔も上げられない。
源氏の君はお(ぐし)をなでて耳元で(うら)(ごと)をおっしゃる。
かろうじて姫君は、
「昔話を探してみましたけれど、あなた様のような困った父親はおりませんでした」
反撃(はんげき)なさった。
源氏の君は気恥ずかしくなって、それ以上のことはできずにお帰りになる。
いったいおふたりのご関係はどうなっていくのかしら。
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