野いちご源氏物語 二五 蛍(ほたる)
(みや)様からのお手紙が届いた。
白い薄い紙に上品なご筆跡(ひっせき)で書かれている。
文章だけを取り出すとたいしたことがないように思うかもしれないけれど、それでも一応書くわね。

端午(たんご)節句(せっく)の今日でさえ、菖蒲(あやめ)の根は見向きもされませんね。私も寂しさのあまり人知れず泣いています」
端午の節句にお決まりの菖蒲(あやめ)だけれど、花や葉ではなく根がお手紙に()えてあった。
「節句のお手紙ですから、ぜひお返事なさい」
源氏(げんじ)(きみ)は姫君に(すす)めて出ていかれる。
女房(にょうぼう)たちもお勧めするので、
「寂しくてお泣きになるのは幼い子どものようで、それほど真剣なご愛情とは思えません」
とお書きになった。
宮様は芸術面にうるさい方だから、
<ご筆跡にもう少し格調(かくちょう)がほしい>
と、やや残念にお思いになる。

姫君のところには節句の美しい贈り物がたくさん届いている。
これまでの苦しいご生活とは()って()わって、幸せをお感じになることも多くなった。
<あとは源氏の君の厄介(やっかい)なお気持ちが、世間に気づかれ批判(ひはん)される前に消えてほしい>
と思っていらっしゃる。
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