五妃伝 ~玉座に咲く愛~
玄曜は、自分の胸が静かに震えていることに気づいていた。

恐れでもなく、疑念でもない。

ただ、得体の知れない何かが、彼女の言葉に呼応している。

(もし、“運命”という言葉がこの世にあるのなら――)

それはきっと、この少女・悠蘭のために存在しているのだろう。

帳の外に出ると、陽が傾き始めていた。

市場の喧騒が再び耳に戻ってくる。

だが玄曜の心には、悠蘭の声だけが、なおも澄んで響いていた。

宮殿へ戻った玄曜を出迎えたのは、正妃・瑶華だった。

名門・楊家の令嬢として育ち、玄曜が即位したその年に、皇后として迎えられた賢婦である。

「まあ、陛下。これは……?」

瑶華が目を細めて、玄曜の袖に添えられた小さな花を指さした。

「……いつの間に、こんなものが。」

玄曜は不思議そうに花を摘み取る。

小さな、白い野の花。市場で誰かと擦れ違った際についたのだろうか。

ふと、あの帳の中、悠蘭の前に座ったときの感覚がよみがえる。
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