五妃伝 ～玉座に咲く愛～
「綺麗な花。」

瑶華は微笑んだ。

凛とした立ち姿に、気品ある笑顔――正妃として申し分のない器量の持ち主。

だが玄曜の心には、なぜか波が立たなかった。

彼女の声は優しく、姿も美しい。

それなのに――鼓動は静かに打つばかりで、あの時のような高鳴りは訪れない。

（なぜだ……？）

自問するまでもなく、玄曜は知っていた。

あの市井の娘――悠蘭という少女が、すでに自分の中に何かを落としていったのだ。

来る日も来る日も、玄曜の目に浮かぶのは、あの少女の面影だった。

市場の片隅、帳の向こうで静かに言葉を紡いでいた、

名もなき占い師――悠蘭。

まだあどけなさを残す顔立ち、落ち着いた物腰。

だが、その瞳には不思議な深さがあった。

（あれほどの者なら……すぐに縁談が持ち込まれるかもしれぬ）

そう思うたび、胸の奥がざわつく。

彼女は市井の娘。名もなき民の一人であり、後宮どころか、王宮の門をくぐる資格すら本来はない。
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