五妃伝 ~玉座に咲く愛~
「……一般人だぞ。」

自分にそう言い聞かせるように、玄曜は呟いた。

己の立場を忘れるな。

政を預かる者として、私情で動くことは許されない。

だが、それでも思考は悠蘭へと戻る。

もし、誰かが彼女を娶ったら。

もし、誰かが彼女の未来を奪っていったら――

理性では理解していても、感情は従わなかった。

初めてだった。

多くの妃に囲まれながらも、こんなにも強く「誰かを得たい」と願ったのは。

それが叶わぬ願いであっても、彼の心はもう、戻れないところまで進み始めていた。

玄曜の様子の変化に、最も早く気づいたのは陳亮だった。

いつもなら冷静で無駄のない主君が、近頃は何かに思い悩むような瞳をしている。

「……あの占い師、ですか。」

ある日、ふとした隙に、陳亮は切り出した。

彼は物おじせずに意見を述べる、数少ない側近である。
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